まめ電球だけを点けた沢松の部屋の、乱れたベッドの上。
そこに仰向けに横たわるオレの上で沢松は苦しそうに息を荒げている。
苦しそうといっても、息を荒げているのは苦しさとはまったく逆の理由からだったけど。

オレは何も言わず、何もせず、快楽を得るための部分だけを繋げた体勢でそれを聞いていた。
今日に限ってこんな体位でしてるのも、直接触ってやらないのもワザと。
触れてもいないのに沢松の前はすっかり勃ち上がってもうぐちゃぐちゃだった。
ときどき悪戯をするように腰を押し上げると、そのたびにビクリと震え声にならない声で喘ぐ。
顔を見たいから、いつも解く髪も今日はそのままにさせた。
隠すものは何も無くあらわな沢松の表情は、今にも泣きだしそうに歪んでいる。
ただ繋がってるだけの・・・奥に触れているだけの刺激ではもの足りないはずなのに、
もうそこまで身体は慣れきっているはずなのに、沢松は自ら腰を動かすことはしない。
どうも自ら腰を動かすことには、まだ抵抗があるらしい。
そんな沢松が愛おしいし、煩わしいと思う。拒絶しないくせに抵抗されているみたいだ。


いい加減焦れて乱暴に上体を起こすと、その動きで前立腺を刺激したらしい。一際大きな声が上がった。
勢いで後ろに倒れそうになる沢松をとっさに支え、片方の手ですっかり出来上がってる前を握る。
「や、あっ、ぁ・・・」
その声と一緒に中が締まるのを感じた。粘膜がまとわり付いてきて、きもちいい。
オレは押し寄せる快楽の波に飲まれそうになるのを堪えて、それをやり過ごした。
沢松を追い詰めるだけの余裕は、絶対に残しておかなければいけない。
そうでなければ、この行為の意味がなくなる。

汗ばんでいた手が沢松の先走りでますます濡れていく。
それを潤滑油にして、そっと上下に手を動かした。
「ん・・・あ、あまく・・に」
待ちわびたように腕を掴んできた沢松の手を肩に導き体勢を安定させて、
与えられる快楽に酔っているような表情を確認してから
「ぅあ!?」
髪を掴んで俯かせた。
沢松が決して見ようとしなかった、一番分かりやすく快感を訴えて一番きもちいい部分。
そこにオレの指が絡みついてるのを見せ付けてやる。
「や・・・だ天国、離せ、頭・・」
泣きそうな声で嫌がり頭を振って抵抗する沢松の、髪の結び目を掴んで頭を固定する。
髪を解かなかったのは本当に正解だった。これからはずっとそうしようか・・・
「う・・っ」
「見ろよ沢松。どうなってる?」
上下に動かすだけの手淫を止め、先端から溢れる汁を押し戻すように親指を動かす。
それでも先走りは親指の下から次々とあふれ出て、全体をいやらしく光らせていた。
掌の下で、血管がびくびく脈打ってるのを感じる。
「やぁ・・・も、イ・・く」
「駄目。ちゃんと見ろ目ぇ閉じるな。沢松の顔、ちゃんと見えてるんだぜ」
「い・・・ぁ」
「見ないなら」
愛撫の手を離すと沢松自身と猿野の掌が同じような色で濡れ光っている。
「イかせない」
「・・・あ」
その時オレを見た沢松の表情が、切なそうに眉を寄せて泣きそうで、唾液で濡れた唇は半開きで、でも歯は食いしばって
そうだ、そういうのが欲しいんだ、と思った。
「お前のそこ、オレに触って欲しそうにしてる」
オレを求めろ。
いや、もうすでに求めてる・・・っていいかげん認めろよ。
そろそろ思い知ってもいいんじゃねぇの?

でも沢松の口から出てきたのは望んでいたものとは違う言葉だった。
「おまえ・・・だっ、て・・限界だ、ろ・・あ」
「ん・・まぁな」
舌打ちしたい気分だった。
この期に及んでそんな口を利く沢松に苛立っただけでなく、その言葉が的を射ていたから。
これだけ追い詰めてもしっかりオレの状態を把握している沢松が憎らしい。
実際お預け状態だったのはオレも同じで、かなり余裕がなくなってきてた。
思いっきりかき回したい。突き上げたい。
でもそんなのオレにとってはいつもいつもいつも考えていることで、今更どうというコトは無かった。
確かに身体は切羽詰ってるけども精神的にはまだまだ余裕だ。
勃ち上がっている沢松のを今度は人差し指で軽く撫でてやる、
それだけでビクリと肩を震わす沢松の方が限界なのは目に見えてる。
そして腰が揺らぎそうになるのを必死に耐えているその強がりが、そろそろ崩れそうなのも。
「どうして欲しい?どうしたい?言えよ」
「・・・うる、せぇ」
「言、え」
「っ・・・」

しばらくの沈黙・・・多分迷いだと思う。
その後、恨めしそうに媚びるように降参するように沢松がゆっくりオレの眼を見た

その瞬間


「っ、うわ!?」

身体が落下した感じがした。






違う。相変わらずオレの身体はベッドの上にあったし、オレの上には沢松がいる。
一瞬のうちにオレは仰向けに押し倒されていて、視界は沢松の手で覆い隠されていた。
最初は何が起きたか分からなかったが、薄闇に慣れてきていたはずの視界が真っ暗になってるのと
顔に感じる手の感触でそれに気付いた。
ベッドのスプリングがきしむ音と、頭を打ったオレの声と、
倒れた勢いで中を刺激された沢松の悲鳴のような声とが重なる。
耳の辺りで沢松の呼吸を感じながらオレは、ただじっとしてるしかなかった。


「はぁ、はぁ・・・あ、う」
呼吸の音が耳元から遠ざかり、覆いかぶさるように倒れてきたらしい沢松の重みが引いた。
けっきょく最初の体勢に戻ったらしい。ただ一つ、オレの目が沢松の手で覆われていることを除いて。
細い指の隙間から天井を見ながら、上からの息遣いを聞きながら、
オレは大人しく沢松の手がどかされるのを待った。けど後頭部の鈍痛が治まっても手がどかされる気配は無い。
怒らせるかとは思ってたが、ここまでされるとは思わなかったな・・・
「・・・沢松?」
さすがに少し不安になって名前を呼んだ。けど返事すら無い。
限りなく闇に近い部屋の中でただ繰り返される激しい息遣いだけが、沢松の状態を窺うことのできるものだった。
だけどそれだけの情報は不可解な行動の真意を知るにはあまりに頼りない。
ヤバイ、完璧に怒らせたか?
不安と焦りから、力ずくで目隠しを外そうと手を上げた瞬間、下半身に感じていた沢松の重みが一瞬引いた。
「? さわま・・・あ、アァ!?」
そして戻ってくる。凄まじい快感を伴って。
「うあ!?アッ!」
「あ!!・・ひぁ、っ!」
軽くなる、重くなる・・・それが繰り返される。
強がりが崩れた瞬間だった。崩れたそれを、自ら跡形もなく消し去ろうとするように沢松は激しく腰を動かす。

ひたすらオレと自分の快楽を求める・・・ずっと望んでいたその瞬間は、沢松の指に遮られて見れなかった。
惜しいと思う間もなく頭が真っ白にされる。そして真っ暗だった視界の中に、火花が散る。
「うあ、あ!あ」
初めて向こうから積極的に、一方的に与えられる快感に声を抑えることすら適わない。
それはオレの眼を覆うのと自分の身体を支えるのに両手を使っている沢松も同じらしい。
「ん、あ、ア!!」
「ア・・んぅ!」
ギシギシというスプリングの音、ぐちゃぐちゃというローションの音、それに二人の声が重なる。
ギリギリまで引き抜いてまた深く挿す。腰を揺らして内壁にこすりつけてくる。
「さわ・・ま、もういぃ・・・いあ!」
深く差し込むたびに沢松の前立腺をこすり、引き抜くのを惜しむように沢松の粘膜がオレのを締め付ける。
それが互いにたまらなく気持ちいい。
「ひう、ん、アァ!」
やがてオレがゴムの中に射精すると、腰の動きを止めた沢松が少しの水音のあと、腹の上に熱を放ったのを感じた。


・
・
・

中身を零さないように、慎重にゴムを外す。
行為に慣れて使うようになったこの道具だが、外す時の空しさといったら・・・
なんとも言えないやりきれなさを感じながら沢松の方を見た。
すでに衣服を身に付け、ベッドから降りてオレに背を向けたままで座っている。
「沢松」
ティッシュとゴミ箱を取ってもらおうと思って名前を呼ぶが、無視される。
「沢松ってば」
くいっと、解かれた髪を少し乱暴に引っ張った。
それでやっとしぶしぶといった風に、沢松が振り返る。
「どうした?」
「・・・」
「怒ってんのか?」
「・・・」
「なぁ
「あーーーーーーーーー」
オレの言葉を最後まで聞かず、沢松は頭を抱え背中を丸めた。
「ど・・・どうした!?」
「オレ、オレもぉ・・・はず・・・」
「・・・は?」
「何をした・・・オレはいったいなにをしたんだ」
「何って騎じょ
「うわぁぁ言うなーーーー!!!」
「いやお前が聞いたんじゃん!」


頭をかきむしりながら、どんなに恥ずかしい格好をさせているときよりも照れている
沢松を見てとても幸せだと思う。




次はどんなことをしよう?