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高校に入ってすぐ好きな子ができて、フラれて、それからまた好きな子ができた。
いや、好きな子って、そんな言葉じゃ足りないような今までとは明らかに違う特別な人だ。
どこが特別かというと、近づきたい、笑顔が見たい、喜んでもらいたい、めちゃくちゃそう思う・・・
でも触れたいと思えない。汚しそうだからだ。
神聖だと思う。マジ天使なんだと思う。妄想の中でさえオレはあの人に何もできない。
それに想像できないんだ。オレがあの人に触れていくところを。
だから妄想の中でさえ指一本触れられず、ただ微笑んでくれているのを想像するだけ。
そうしてオレはその微笑みが乱れるところなんて見たくないと願う。
不思議なことにその想像だけで満たされるような気持ちになった。
でもそれはあくまで「満たされるような」だ。実際に満たされてるわけじゃはない。
その証拠にオレは、どういうわけか・・・。

リアルに、しかも冷静に想像できた。ソレを使って自分を慰めた後に感じたのは
すごい後悔と申し訳なさと、自分でも信じられない気持だった。
乱れた息や、あまくに、ってオレを呼ぶ声、はだかとか濡れた手・・・想像できないはずない。
ほとんど全部知ってるし、知らない部分だって頭の中でほぼ完ぺきに補えるんだから。オレ達はそれくらい長い付き合いで、
出会ってから高校に入学した今までで、普通の友達とは絶対やらないことをいくつもしてきたし隠し事なんてない。
最初から隠す事すら諦めてたからだ。
沢松の前でオレは丸裸も同然だったんだ。だがしかし今回ばかりは隠す努力をしようと思う。
だっていくらなんでも引かれるって・・・!
それからというもの、オレは沢松に会うたびに微妙に身体が強張ってしまう。変に思われてやしないかと、ヒヤヒヤものだ。
そんなギリギリの綱渡りの毎日。でもオレはその綱を渡ってることすら忘れるほどの練習でなんとか野球部に入った。
それは間違いなく彼女のためだ。
彼女のために入った野球部だったけれど、その練習でオレは別の意味でも救われることになった。
夜疲れ果てて悶々と考える前に寝てしまえたから。でもそれは夜、家での話。
毎日学校で顔を合わせる沢松にオレはどういう態度をとっていいのか分からなくなった。
たった一回の過ちのせいで十年単位で積み上げてきた空気?みたいなものにいとも簡単にヒビが入ってしまって
そのヒビは、これからどんどん大きくなっていくんだろうか・・・そう考えただけでもう頭を抱えたくなる。
「おい天国」
こうやって声を聞くたびに我ながらバカな事を思いついてしまったと思う。なんでアイドルやグラビアじゃなかったのか。
そしてオレが本当にバカなのは、その思いつきを実行してしまって、
さらにバカなのはそのせいで、今めちゃくちゃ後悔してるってこと。
マジでバカだ。だけど真剣だ。真剣に悩んでんだ。
「天国!聞いてんのか」
聞いてるよ・・・ばっちり聞こえてるよ。聞こえてるから黙ってんじゃねーか。
自分のバカな行為を思い出して、本物の沢松を見るとオレの記憶と想像力が暴れまわって、頭の中とは反対に身体はまったく動かなくなる。
「次体育だろ。さっさと着替えてさっさと移動するぞ!ホラ立てって」
ボスン、と体操着袋で頭を殴られた。しぶしぶ突っ伏していた身体を机から起こして辺りを見回すと、
教室にはオレと沢松以外に誰もいなくなってて、時計を見れば一限目の始まる2分前。オレは学ランのまま。
沢松は・・・
「なぁーーーーーーーーー!!!」
「うわ!」
「な、ななな何脱いでんだよぉ」
「何って着替えるからに決まってんだろ!」
あぁ、もうマジで勘弁して・・・。オレは頭を抱えてまた机に突っ伏した。
一応弁解しておくがオレは今、決してサカってるわけじゃない。そこまで欲望に忠実じゃない。
「・・・・めん」
ただ、どうしようもなく恥ずかしかった。
「え?」
「ごめんな、沢松」
この謝罪は聞こえてなくてもよかった。でも聞こえたみたいで。
「どうしたんだよ最近・・・なんかあったか?」
心配そうな声。やっぱ気づいてた。体調じゃなくて、心が原因って分かってるし・・・。
でも自分がオカズにされてたなんて考えもしないよなぁ・・・。
「なんでもない」
「なんでもあるだろ」
「・・・あー」
オレはぐちゃぐちゃの頭で考える。
今は罪悪感のせいでめちゃくちゃ気まずいけど、オレにとって一番居心地がいいのは間違いなく沢松の隣で、
オレのことなんでも分かってて、厳しくなくて優しすぎもしない。
そんなのずるい。卑怯だ。ダチとして見るのをやめたらいとも簡単に好きになってしまいそうで・・・あぁもう実際なってんのか!?
あーもうなんでだ・・・またオレを絶望が襲う。気付かなければ無いのと同じだったのに、気付いてしまった。
惚れっぽいのは自覚してたけど!
好きになれると、そういう対象として見れてしまうと。そう気付いたらもう、そうとしか見れなくなってしまって。
妄想の中だけじゃなくて、実際に触れてみたくて。
でもさらに絶望的なのは、オレは沢松がオレのこの気持ちに気付くことを期待してないってこと。
オレの欲望はもっと深く暗いところにある。
長い付き合いの、オレの全てを知る沢松がこの欲望まで見通してしまうとき、きっと沢松は見て見ぬふりをするだろう。
オレ達の関係を壊したくないから。
そうしたらオレの我慢は限界を超えて爆発するんだと思う。そうしたらきっと沢松を傷つける。


オレは、沢松がその傷をも受け入れてくれる事を期待してる。



「な、沢松」
ゆっくりと立ち上がると椅子が床と擦れた音がやけに大きく響いた。そんなつもりないのに威嚇してしまったみたいだ。
何も解らずにいる沢松に手を伸ばす。獲物・・・なぜかそんな言葉が浮かんだ。
「あ・・・?え」
オレの伸ばす手は・・・オレは、汚い。
「あ、あ、あまくに?」
ずるい。それでも触りたい。
「こんなことするオレをどう思う?」
オレの両手に顔を挟まれた沢松は、何か言いかけたのか、それとも驚きのあまり
無意味にそうしただけなのか、口を数回パクパクさせたまま動かないで居る。オレの手を振り払う素振りも見せない。
挟んでると言っても動けないように固定してるわけじゃなくて、ただそっと頬に添えてる状態だから、
抵抗のないのはオレの抑止でなく沢松の意思だ。
この行動の不可解さで抵抗という選択に考えが及んでいないということには、今は気付かないふりをしておこう。
「ど、どう思うって」
目を逸らす事を忘れたままオレの言葉の意味を考える沢松。オレを見て、オレのことを考えてる。
「こんなこと、考えてるオレを、どう思う?」
好きだ。
「こんなことってなんだよ」
ヤりたい。
「当ててみろ」
「はぁ・・・?」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「っ!・・・馬鹿かっ!!!」

歯を食いしばっといて良かった。馬鹿かのバで目の前に星が飛んで、よろけたオレの手は沢松の頬から離れた。
「っ・・・ってぇ」
殴られたところまでは予想通り。でもそれ以外の、オレから逃れた沢松の反応はまったく予想と違っていた。
耳は真っ赤で、あろうことか普通に照れやがって。
「・・・っ、沢松!」
・・・反則だ、逃がせない、ぞ。こんなの。
名前を呼ぶのと同時に離れていこうとする沢松の手首を掴んでいた。確実に、自分の中にできた目的のために。
沢松の顔に浮かんだ怯えの表情は、見ないふりをした。
「沢松、オレは―」
そうさせるのは、ここにある、ここにあるはずのないもの。
そのせいでオレはもう昔のようにお前に触れることは出来ないよ。
「オレは」
諦めがついて消えるハズだった気持ちは逆に昂ぶって、ちくしょう。
こうなったら後先も何も考えず常識とか全部無視して、妄想を一つ現実にしてしまおうか。