ブログの10000hit記念で配ったコピ本の小説パートです。無料本だったしもうそろそろ出してもいいかな?と思いまして。
ちなみに本にはふぇら漫画が冒頭にありました・・・。

途中から始まるみたいなやおい18禁ですがよろしければ






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濡れているはずの手が、涙の当たった部分からカラカラに乾いてひび割れて行くように感じた。
雫の伝う感触が確かにあるのに、乾いて、欲しくてしょうがない。乱暴な衝動にも似たそれの正体はどうしようもない渇望だった。
友達のままでいたかった。いたかったのに、沢松によって与えられた熱は行き場を失ったように猿野の身体の中心で暴れまわってる。
最初、沢松の告白を冗談で済ませようと思った。そうやってその想いをへし折ろうとしたのに
沢松は拒みかけた猿野のモノを躊躇わず口に含み、稚拙ながらも懸命に愛撫した。
その行為は『好きだ』という気持ちよりも、事に及んでしまったらもう後に引けないという悲壮な決意を滲ませていて
それを感じたから猿野は沢松を拒絶できなかった。拒絶することができず、結果的には受け入れてしまった。
拒絶すれば二人で歩んできた過去も一緒にいる今もこれからの未来も、壊れてしまうと分かっていたから。

しかし猿野は沢松に好きだと言われたことよりも、親友が自分のモノを咥え舐めあげているという目の前の現実よりも、
自分の身体の変化が信じられなかった。
もちろん沢松の告白も行動も充分に信じがたいけれど、自分の身体の見えるところと見えないところの変化はもっと不可解だ。
親友の愛撫に興奮している自分・・・沢松に対して欲情している自分が確かにいる。
それが「好き」だからなのか、ただ単に欲情の捌け口として求めているのかは分からなかったけれど。

立ちひざで猿野を見上げる沢松の頬は紅潮し、唇は唾液で濡れていた。
そこに自分の精液が滴る様を想像してしまって猿野は顔を歪めた。
ありえない不埒な想像と思ったからではなく、それは今の状態なら充分にありえることと思ったからだ。
「天国」
見つめていたその唇が不意に自分の名を呼び、猿野はたじろいだ。
潤んだ目は問いかけるように猿野を映していて、そこに見えるはずのない自分の顔を見て猿野は目を背けた。
きっと自分は顔を赤くして、気持ちよくて堪らないという顔をしてる・・・その事実よりも、その顔を沢松に見られていることの方が恥ずかしい。
中心が反応しているのは、一方的に与えられ続けた快感のせいだと言い訳したかった。
同性、それも親友からの愛撫に不快でなく快感を感じてしまったのは、若さゆえと思いたかった。
しかしどんな言い訳をしても結局、最終的には身体の熱を解き放ちたいという欲望にたどり着くのだから、
このまま進むことは追い詰められることと同じで、逃げ場なんてない。戻ることは不可能だった。
「ヤろう」
沢松のその誘いを断ることなんてできるわけなかった、こんな状態で。

★

猿野から応えが返ってこないと悟った沢松は、再び猿野のモノを口に含もうとした。
しかし手で竿を捕らえ伸ばした舌が先端を舐める前に、頬に添えられていた猿野の手は沢松の肩にすべり
沢松の身体は床に押し倒された。
「わっ、ぁ?」
髪の結び目が当たるせいで沢松は自然に顔を横に向けて、猿野の部活用の大きなスポーツバッグと部屋の古びたタンスが視界に入る。
頬を伝っていた涙が目尻へと流れ、そこで沢松はやっと自分が泣いていた事を自覚した。
どうして涙が出てるんだろうと考えている沢松の天井を向いた耳に、不意に猿野の声が降ってきた。
「沢松、お前は」
それは本音を意図的に覆い隠そうとしているみたいに低く硬い声で、沢松は恐ろしさよりも猿野の強がりを感じて苦笑いしそうになった。
我慢がきかなくなってきてるのはさっき口の中でイヤというほど感じてたから、分かりきってるのに。
表情でも口でも嘘を吐くのはヘタクソなくせに、ましてやそれ以外の場所で嘘を吐くなんて出来るはずないのに。
現にこうして、猿野は感情に任せて沢松を押し倒している。
「オレを抱きたいのか、それとも抱かれたいの、か・・・?」
猿野の問いに沢松は顔を背けたまま「天国の好きなほうでいいよ」と答えた。
特定の答えを言わなくてもその言葉で立場は決まったも同然だった。
落ちた、と沢松は思った。押さえつけているのはお前でも、主導権を握ってるのはオレなんだよ。

「っ、ん!」
覆いかぶさっている猿野が沢松の股間をズボンの上から揉みしだく。
沢松のそこがまったく反応していないのを確認して手を外して、今度は沢松のカッターシャツのボタンに手をかけた。
「あ、いい。自分で脱ぐ」
沢松は慌てて猿野の手を掴んで止めた。猿野は不信そうな顔をしているが、これだけは恥ずかしかった。
猿野に抱かれるのも舐められるのも触られるのも、快楽で羞恥心を押し流してしまえば平気だと思う・・・
ましてやそれは、自分から望んだことなのだ。でも脱がされるのは恥ずかしい。
体格の差をまじまじと確認されるのがイヤだという男の悩みから、脱がされているときの微妙な間が何とも言えないという女々しいものまで。
もっとも沢松には男としての経験も、女としての経験もないから女の子の気持ちなんて解らなかったけれど。
脱がしてもらうのも女の子にしてみたら嬉しいのかもしれない。けれど沢松は、イヤだと思った。
その微妙な気持ちは男なのに女役という沢松の立場をよく表していた。

「・・・布団、しく」
「いいから」
覆いかぶさっていた猿野が立ち上がろうとしたのを、沢松は制服の裾を掴んで制止した。
「でもよ・・・」
渋る猿野を引き止める方法を沢松は考え「我慢できない」という常套句が浮かんだが
まだちょっとも勃ち上がっていない状態でそんなセリフはギャグにしかならない。
「考える間とか・・・欲しくねぇんだ」
しょうがないから正直にそう言った。
正直に言ったけれど、沢松はその理由までは口に出さなかった。口に出してしまえば最悪の形で終わると悟っていたからだ。
猿野もそれ以上何も聞かず立ち上がりかけていた身体を再び畳に落とし、沢松によって中途半端に脱がされていたズボンを下着ごと脱ぎ捨てた。
沢松もカッターシャツと下に着ていたTシャツを脱ぎズボンも下着と一緒に脱いだ。
互いに何もまとわぬ姿になって裸の胸同士が触れ合う。
その時沢松が感じたのは嬉しさなんかじゃなくて、あたたかい、という単純で簡単な感想だけだった。

☆

部屋の中は電気をつけていなくても時刻的にまだ薄明るくてそれがまた部屋の中を妙な雰囲気にしていて
躊躇いの中抱き合うのにはお似合いだったし、沢松の様子を確認するには好都合だった。
でも猿野は肝心な自分の気持ちはまるで明かり一つない真の暗闇の中を手探りで小さな落し物を探しているみたいに見えていなかった。
分からないことが多すぎる。ただごうごうと流されるままに流されて、何一つ確かめられぬままに猿野は裸で沢松を抱いていた。
「沢松・・・」
確認しなければ、と。自分の気持ちが解らないなら、せめて沢松の気持ちだけは確認しなければと無性にそう思った。
暗闇の中では自分の存在だけが唯一確かであるように、沢松を傷つけたくないというその気持ちだけはハッキリとしていた。
抱き合ったまま猿野は沢松の表情も見取れないで問う。その問いは沢松にかそれとも自分自身にか、それすらも分からないまま。
「オレ、お前と・・・ヤろうとしてる、けど・・・それがす、好きだからなのか、ただ気持ちよくなりたいからなのか・・まだ、わかんねぇ」
それを耳元で聞いた沢松は、猿野に負けない力で猿野の肩を抱いてそれを返事の足がかりにするようにして言った。
「そんなの終わった後で考えろよ」
腕の力に負けない力強さに、猿野の迷いは消えた。

とりあえず沢松の髪ゴムを取って投げ捨てたが、他に何をしていいか分からなかった。
ゴムを放った手をどうしていいか分からないまま少しの沈黙があって、その後、沢松の手が猿野の股間に延びてきてゆっくりと包み込み手淫を始めた。
猿野もそれに倣って萎えたままの沢松自身に触れた。
「っ・・・」
沢松が息を呑むのを確認してから、触れた掌をゆっくり上下にさする。沢松の手も同じ動きを繰り返した。
「はぁ、ア」
手の中で沢松自身が硬くなり始めるのを感じながら、猿野は不思議な、奇妙な気持ちになった。
長年連れ添ってなんでも一緒にしてきた沢松との間にまだ踏み込んだことのない未知の部分があって、
今まさにそこに踏み込んでいるのだと、快感の支配を必死に逃れている・・・
あるいは親友以上の関係を今も強烈に拒んでいる心の一部分が、どこからか自分を客観的に冷静に見ている。

やがて猿野が沢松に覆いかぶさるようにのしかかった。体勢が変わっても二人の手の動きは止まらない。
二人の間にはキスも、中心以外への愛撫もなく、ただ直接的な快楽だけをむさぼった。
自慰とまったく同じ刺激のはずなのに自分以外の誰かに与えられているというだけでその快感は何倍にもなった。
沢松だから・・・だろうか?もし他の野郎とだったら・・・そう考えたら萎えそうになって驚き、
じゃあ大好きなあの人なら・・・そう考えるのは沢松に申し訳ないような気がして止めた。
でもどうしてそんな気持ちになるだろう?
「あ・・まく、に」
かすれた声で自分を呼ぶ沢松になぜか胸が震えた。自分の体液で濡れてた沢松の手に、もっと激しく押し付けたいと思った。
「っ?ア」
それを悟ったように沢松の手の動きが激しくなる。上下にさするだけでなく、全体を包み込んで丁寧に揉みしだいていった。
「ひ、あっ!沢ま・・・つ、ちょ・・・ヤバ、い、アァ!」
「・・・!」
息が互いに荒くなっていく中で、蓄積された快感の多い猿野の方が先に限界を迎え
沢松の手の中に収まりきらない分は腹の上にこぼれた。

「はぁ、はぁ・・・あ」
猿野はゆっくりを身体を起こし、精液がこぼれないように掌を上向けたまま制止している沢松を見下ろした。
呼吸のたびに動く汚れた腹を見て、初めて人前で射精したことよりも自分だけ先に絶頂を迎えてしまった後ろめたさよりも
物足りない、という思いの方が強い・・・そんな自分を猿野は恥じた。
沢松も呆然としている猿野を押しのけ状態を起こし、手の中の精液を見つめている。
「さわ」
畳の上に座り込んだ猿野が謝ろうとしたその時、沢松は手首から滴るそれを舐めあげた。
そして腰を浮かして指を自らの後ろにあてがい精液を秘部に押し付けるように動かし始める。
「・・・ま、つ」
その行動を見て猿野に生まれたのは戸惑いよりも、終わりではなくこれから始まるのだという
安心感と期待と不安のどれにも少しずつ似ていて、どれとも違う気持ちだった。

★

沢松はこれだけで終わらせるつもりはなかった。
猿野と一緒にもっともっと堕ちていって、戻れないところまで行きたかった。
『親友』とか『恋人』とかそんな建前なんていらない、他人の踏み込めないような深い部分で二人きりで繋がりたかった。
それは猿野を自分から逃れられなくする唯一の手段だった。
好きなんだっていう気持ちじゃなくて、既成事実を作るために
『親友』という間柄で『恋人』がやるような事を無理矢理やったなんて・・・知られたら嫌われるんだろうな。
それでも好きだという気持ちは大前提として沢松の中にあった。たとえそれが支配欲に変わってしまっていたとしても。

猿野の放ったものがへそのくぼみに伝うのを感じながら、沢松は猿野を受け入れるために後ろをならし続けた。
前は既に勃ち上がり先走りを垂らしていたが、沢松は頑なにそれを触ろうとしなかった。猿野にも触らせようとしなかった。
ぐち、ぐちと猿野に聞こえる事を意識して沢松は自分で自分を弄り続ける。
「さわ、まつ」
「・・・」
猿野が自分の名前を呼ぶのを確認して手を止めすり膝で近付き、射精したばかりで萎えている猿野自身を再度口に含んだ。
より強く独特の味が口の中に広がっていくのを感じながら沢松はさっきよりも丹念に、
鍛える事を意識して舌を使った。手を添えて竿の裏を舐め上げ舌先で割れ目を突き、頬をすぼめて吸い上げる。
「っ、ヒ・・・あ?」
竿がビクビクと脈打ってるのを口内で感じる。猿野の声も再び上がってきた。
一度出している分、快感はねっとりとまとわりつくように、じわじわと猿野の身体を支配していく。

沢松はいったん口を離し、畳の上の猿野の右手を取って自分の目の前に引き寄せた。
「おい?・・ん!」
ぺろり、と。唾液と精液とで濡れた唇から舌が出てきて猿野の人差し指を舐め、そして次には指全体が沢松の口の中に消えた。
濡らす事だけを考えて、唾液が指の間から手の甲、掌に伝うくらいに舐め上げていく。
「なに、するんだ・・・よ?」
しかし沢松の口は猿野の問いに答える余裕など微塵もなかった・・・というよりも
口が言葉を話すという役割を忘れ、愛撫をするためだけの器官になってしまったように沢松は一心不乱に指をしゃぶる。
快感が邪魔しない分舌の柔らかさと温かさが感じられて猿野の肌は粟立ち、やっと解放されたころには猿野の指は沢松の唾液でぐっしょり濡れていた。
「天国・・・オレの後ろ、ならして」
「・・・は?」
「うしろ、指使って拡げて・・・。分かるだろ?いれるんだから」
「・・・っ」
言葉の意味を悟った猿野は一瞬だけ戸惑いの表情を見せたが、すぐに右手を四つんばいになった沢松の秘部に伸ばした。

すでに自分で慣らしていて多少柔らかくなっていたにも関わらず沢松があえて猿野を促したのは
互いの身体を高めあっていくことに意味があったからだ。
「・・・ん、ぅ」
猿野の指が恐る恐る沢松の秘部を捕らえ、まずは人差し指の第一関節までが挿し入れられた。
自分で入れるのとは違って異物感を強く感じてしまい、思わず力が入ってしまう。
沢松は必死で力を抜き、深く指が差し入れられるのを待った。やがて第二関節まで侵入してくる。
「ん・・・く」
指の侵入が止まったのを感じた沢松が四つん這いのまま少しだけ前進して猿野のモノを口に含むと
ビクン、と猿野の身体が跳ねるのを触れ合っている全ての部分で感じた。
指を舐める前よりも猿野の味を強く感じて苦味と共に喜びが広がった。
大丈夫、痛くない。ここまできたらもう怖くもない。でもなぜか涙が出てくる。

☆

沢松の中に自分の一部分を入れたことで、猿野の中で何かのスイッチが押された。
普段オンになっているものがオフになったのか、逆にいつもは眠っているものがオンになったのか、あるいは両方なのか、それは分からない。
ただ、沢松に入れたい。指なんかじゃなくてもっと直接的なものを。そう思った。強く、願った。
迷いは消えてはいないがとうに忘れていた。
舌だけでなく頭を動かして、くわえ込んでいる猿野のモノを必死に愛撫している沢松の顔が見たくて
額にかかる髪を左手で掻き揚げてやるけれど、後ろを弄る右手と左手を同時に違う動作で動かすのは難しかった。
髪を掻き揚げるのは諦めて右手の方へ集中することにした。
その方が、沢松が喜ぶ気がしたからだ。

沢松の中に埋まっているのは人差し指の第二関節までで今はそれを出し入れしているだけだったが、実はまだ少し余裕がある。
指を折り曲げてかき回すことも出来るし、中指を使ってもっと押し広げることも出来る。
沢松が必死に舌を使うから、躊躇っているだけだ。
歯を立てられないようにと、猿野自身が沢松の口内から完全に出てくるのを見計らって猿野は人差し指を抜き、
すぐに中指を加えた二本の指を突き立てた。
「ヒ、あぁ!」
さらに二本の指の抜き差しを繰り返したり、人差し指と中指を交互に動かしたりすると、沢松は
上体が崩れ尻を掲げる格好になって顔は猿野の脚の間にうずまり、口で責めることが出来なくなってしまった。
沢松の口からしていた水音が、今度は後ろから聞こえ始めた。
「ふ・・・やぁ、あ!」
沢松の嬌声は猿野の脚の間でくぐもった。
「あまく、に、そん・・激し・・と・・動けな、アッ」
「もう充分だよ」
自分の責めに喘ぐ沢松の顔は見えなくても、その声は充分に猿野を刺激した。舌で舐めあげられるのと同じくらい興奮する。
沢松の荒い息が当たるのだけでもイきそうになるくらい、猿野の準備は整っていた。
「あとは沢松の方だろ・・・?ココ、本当に入るのかよ」
「・・・う」
猿野のそのセリフに、沢松の身体がびくりと震えた。どうやら恐怖を感じる方向に解釈されてしまったらしい・・・
もっとも自分でも沢松の身を案じているのか羞恥心を煽るためだったのか、もう分からなかったのだが。
「っ・・・ふ」
深く挿していた指をいったん抜き今度は人差し指だけを差し入れると、沢松のそこは半分に減った質量を易々と呑み込んでみせた。
出来るだけ深くまで挿し込んで、中で指を折り曲げる。
「ヒァ!あ、あ・・ぐ」
苦しそうにかすれる声とは裏腹に、中も入り口も充分に湿り気を帯びて猿野の指をすんなりと受け入れている。
出し入れを繰り返したせいか、乱暴にかき回したせいか、まだ余裕すらある。
「ひ・・・う」
沢松が微かにしゃくりあげているのが聞こえる。そしていつの間にか猿野の太腿には無数の爪あとが付いていた。
その尋常じゃない数と、それでもどれも深い傷ではなく明日には消えてしまうようなものばかりであるということに気付いて、
猿野は沢松のなにか強い意志のようなものを感じた。それでも泣きながら何を成そうとしているのか、猿野には分からなかった。
泣く理由も解らなかったけどそれは考えないようにしていただけかもしれない。
だって泣いたって、止めたってもう戻れないから、今は進むしかないじゃないか。
それに誘ったのは、沢松だろ?

★

猿野が変わった、と思った。それは沢松が望んでそう仕向けたことのはずなのに
消えたと思っていた恐怖が蘇って、沢松は無意識に猿野の太腿に爪を立てていた。
皮膚に浅い傷を残し恐怖が一瞬消え去ると慌てて力をゆるめるが、
後ろをかき回されればまた無意識に爪を立ててしまって、沢松は手を畳の上に落とした。
このままでは傷が増えていくだけだと思った。
猿野はまったく気にしていないが、きっと自分が猿野以上に気にしてしまう。
「ひ、あ」
後ろばかり弄られもどかしすぎる刺激に身体は限界だったが、沢松は自分からは動かなかった。
「もういい・・・かな」
「ふ・・・あ」
深く突き立てられていた指が抜かれる感覚に身震いをした。
そしてまた与えられるであろう圧迫感に身構えたが、猿野はもう指を入れてこなかった。
「・・・天国?」
沢松が猿野の顔を見ようと勇気を出して腕を立て状態を起こすと、
それを見計らったかのように脇の下に腕を入れられ、畳の上に仰向けにされた。
きた、と思った。これから始まることを解っているような解っていないような不可思議な感覚の中で
膝を抱えられ、脚の間に猿野が身体を置き先端をあてがわれるのを感じて思わず息を呑んだ。
力を入れれば痛くなるだけだとなんとなく分かっていたけれど指とはまったく比べ物にならない
質量と熱の存在感に、どうしても身体は萎縮してしまう。
「怖いか?沢松」
「・・・」
思わぬ言葉に沢松はハッとした。態度に出ていたのだろうか。
今止められたら敵わないから、出来るだけ猿野の嗜虐心を煽るような目つきを心がけて平気だよ、と言った。
「っ・・・だろうな」
期待してんだもんな、と猿野は先走りで濡れそぼった沢松自身を握った。
「アっ!」
久しぶりに前に与えられた刺激で思わず腰が揺れ、あてがわれていた猿野の先端が秘部にこすれてそれすらも快感になり身を震わせる。
心配でなく言葉責めか・・・沢松は手の甲を額に付け声を抑えて笑った。
「何笑ってんだよ」
奇妙なものを見る目つきで沢松を見下ろす猿野に沢松は半分だけ嘘で答えた。
「幸せだから」
と。

☆

「なぁ、ゴム・・・」
いよいよという時になって猿野は沢松の脚を持ち上げたまま意味も無く部屋を見回した。
部屋の主は他でもない猿野なのだから、ここに目当てのものは無いと分かっていたけれど
自分の下の沢松があまりに扇情的でこれ以上、目を見て会話したら理性がふっ飛ぶと思った。
潤んだ目、赤い頬、濡れた唇、畳に広がる黒髪、白い肌・・・。
少し間がほしかった。冷静になるための間が。今欲望に忠実に行為に及べば確実に沢松を傷つける。
「このままで、いい・・・よ」
その間を与えまいとするように沢松はかすれた声言った。
「でもよ・・・」
「なんだよ、今度は焦らしプレイか?」
「・・・は?」
今度は?その意味が分からず絶句する猿野の腕に、沢松はわざと爪を立てた。
「っ痛」
「早く入れろよ・・・ガマン、できない」
切実な、挑発するような目で見られて猿野のなけなしの理性は指ではじかれたようにどこかに消え、密やかな戦いはあっさり負けに終わった。
猿野自身を支えるように手を添え、沢松の秘部に先端を埋める。
「あ・・・いっ」
指で慣らしたといってもさすがに辛いらしく、沢松の表情が歪んだが猿野にはすでにそれを気遣う理性も余裕もなくなっていた。
押し出そうとする生理的な力に逆らって、ぐっと腰を押し付けると、一番太い部分が完全に沢松の中に埋まった。
「っ!あ、いた」
猿野はさらに奥へと侵入していく。
内部がまとわり付いてくるのを感じながら沢松の苦痛に歪む顔をじっと見た。
それはその表情にそそられるという以上に、何年も一緒にいたのに初めて沢松の泣き顔をじっくりと見た気がしたからだ。
沢松は普段泣かないのだろうか。それとも泣くのをガマンしていたのだろうか。自分の前で泣かなかっただけだろうか。
好きだという気持ちを吐き出して、何かの栓が外れたみたいに泣く沢松を見て猿野の胸は締め付けられた。
「ヒッ!?あぁ!!」
「っ!」
一際高い嬌声に猿野の思考は断ち切られた。
「あ、今の・・トコ」
「・・・」
回すように押し付けると、沢松の腰が揺らぎ締め付けも強くなった。
そそり立った沢松自身の先端からは透明な液が滴っている。
「ここが、いいのか?」
言葉に出来ず首を縦に振ることでしか返事を出来ない沢松を見て目を細め
猿野はゆっくりと腰を引き、また挿し込み同じ場所を刺激した。
「アァ!?」
摩擦が気持ちいい。もっと腰を動かしやすくするために猿野は沢松に覆いかぶさった。
互いの吐息が感じられるくらいに顔が近付く。
「天国、天国」
うわ言のように繰り返す沢松の声を耳元で聞きながら猿野は改めてその近さを実感した。
物理的な距離と、心理的な距離の近さを。自分の名前をこんなにも理解し呼ぶ人は、母親以外には沢松しかいない。
回された腕が身体の自由を奪うのに苦戦しながら猿野が抜き差しを繰り返すと、沢松の力が強くなっていく。
「はぁ、は・・・ちょ、沢松」
いったん腰の動きを止めて猿野は苦しいほどに締め付けてくる沢松の腕を外した。
動きを止めたことよりも腕を外されたことの方が不服そうな沢松の顔に、猿野は吸い寄せられるように自然にキスをした。
「ん・・・」
触れるだけのキスをしていったん唇を外し、すぐに深いキスをする。
互いの舌で相手の舌の感触を楽しんでから離れると、唾液の糸が伸びた。
「そんなにしがみついたら動けないっての」
濡れた唇を舐め苦笑いをした猿野の言葉に、口の端からこぼれた唾液を拭っていた沢松の顔がみるみる赤くなった。

★

止まっていた律動が再開された。
「んっ、あ・・・ア」
動きやすい体勢をとり、抜き差しは激しくなる。
猿野の動きで身体が揺さぶられるたびに声が洩れて恥ずかしいけれど止められなかった。
「ひ、アァ!や、やめ・・」
思い出したように猿野が前立腺をえぐると、悲鳴のような声が出てしまう。
猿野が行為に慣れていない分、いつそこを責められるかまったく予測が付かなくて、それが余計に辛かった。
もっとも予測したところで声を抑えることなんてきっと出来ないだろうけど・・・それでも少しは冷静でいられるだろうに。
猿野の腹に沢松のものが擦れ、それも快感になってしまう。
「うぁ・・・あ、ハ」
本当に、こんなになるなんて思ってなかった。
自分が自分でなくなりそうで怖い・・・けど嬉しい。でもズルイ、と沢松は思う。結局自分は猿野に振り回されてばかりで、敵わない。
それに背中が畳にこすれて痛い。ここまで考えが回らなかった。やっぱり布団をしいてもらえば良かった・・・情けない。
「ヒッ?あ、っ・・・アァ!」
考えを余所にやって油断している時に前立腺を責められて、沢松は一際大きな声を上げてしまった。
目の前で一瞬火花が散るくらいの快感に、それだけでイッてしまいそうになる。
自分の声に驚いた沢松はとっさに両手で口を押さえた。
それを見た猿野はいったん動きを止めて口を覆っている手を外し、畳の上に押さえつける。
「っ・・・は、だめ・・天国、声・・が」
「ガマン・・・しなくて、いいって」
「・・・でも」
ずっとガマンしてたんだろ?そう言って猿野が指をぎゅっと絡ませて沢松の手を握った。
真上に見る猿野の表情がなんだかすごく優しくて、沢松は身体の中の形のないものを思いっきり殴られたような、
力いっぱい握りつぶされたような気持ちになった。
それでも全身がぽかぽかと温かかった。凍り付いていた何かが溶け出して本格的に溢れそうになって、思わず顔を背ける。
これ以上猿野の顔を見ていられなかった。
「続ける・・・ぞ?オレもそろそろ、げんか、い」
沢松は返事の代わりに指を絡めた猿野の手を力いっぱい握り返した。猿野はチラリとそれを見て、また動きを再開する。
「っん、あ!あ」
溶け出した身体は脆かった。
猿野は沢松の反応を見て声が高くなるところを重点的に責め始め、自分もその動きで上り詰めていく。
「ひ・・・っあ!あぁ!」
「っあ!」
猿野の腹に熱いものが放たれる。
猿野もその熱と断続的に繰り返される締め付けを感じながら、沢松の中に放った。

☆

全てを吐き出して萎えたものを引き抜くと、一緒にどろりとした液体も流れ出てきてやり切れない気分になった。
それが閉じ込めていた気持ちに似ていたからだ。
抜き去るのを惜しむように吸い付いてきた赤く艶かしい肉色。それは今まで自分が蹂躙していた沢松の一部分・・・
卑怯なことと解ってはいたけれど、曝け出されたそれを見ていられなくて猿野は思わず目を背けた。
腕で顔を覆い隠し荒い息を繰り返す沢松に声をかけることはできなくて、とりあえずティッシュを取り腹を伝う精液を拭う。
「・・・オレにも」
「お、おう」
身を起こした沢松に箱ごとティッシュを渡した。
感情を読めない沢松の無表情に猿野は戸惑い、使い終わったティッシュをどう捨てていいのかすら迷ってしまう。
ゴミ箱があるは沢松のいる向こう側で、手の中にあるのはこの行為の確かな証拠なのだ。
中に出した猿野の精液を処理しているらしい沢松の背中を見ることが出来ず
猿野はティッシュをとりあえず畳の上に丸めて置き、散らばった二人分の服を集め始めた。
「・・・平気か?」
勇気を振り絞ったその言葉はあまりに陳腐で薄っぺらだった。
誰が沢松をそんな風にしたんだ。自分自身だろう。
それでも猿野のその問いに沢松は息を吐くような声で平気、と答えた。
でもそれは、全然平気そうに聞こえない。
「風呂使うか?」
「いい。動けないと思う、から・・・布団しいてくれるか?」
は?うごけない・・・?
「マジかよ?そんなにしんどいのになんで言わねぇんだよ!」
思わず責める口調になってしまい猿野がしまった、と思ったとたん沢松はバツが悪そうな顔で猿野の方を振り向いた。
しかしその顔は猿野の予想していたものとは違い、照れたように笑っていた。
「ここまで、なるとは・・・思わなかった」
「・・・は?」
その笑顔がなんだかとても懐かしく思えて猿野は脱力する・・・が、ここで流されてはいけないと自分に言い聞かせ詰問を続ける。
「沢松!お前なぁ」
言いたいことはいっぱいあった。でも第一にコレだ。一番言いたいことはコレだ。
「なんでなんでも一人でギリギリまでガマンするんだよ!」
ずっと一緒にバカやって、友達で、好きだって、なんだよ。なんで泣くんだよ。なんだよ動けないって、なんでだよ・・・。
「だから言ったじゃん。さっき」
「そ、それだけじゃなくてだな・・・お前、動けなくなるまで」
「だってやめたくなかったから・・・気持ちよくて」
「・・・っば」
「それに天国だって絶対途中で止めれなかったって。だってオレ言ったような気がすんだけどなー『やめ』って」
「は・・・マジで?」
「よく覚えてないけど」
そう言って沢松はまた笑う。アレ?なんか沢松のペースになってないか?猿野は慌てるがだからといって
自分のペースに持っていく術は、今の虚脱した頭と弛緩した身体では、皆無だった。
「でもおかげでスッキリしたよ・・・ゴメンな。もう大丈夫だから・・・カバン取ってくれ、着替え入ってるから」
「大丈夫って何が・・・って、は?着替え?なんで」
「動けねーから泊まる。明日休みだし」
「そうじゃなくてなんでそんなもん・・・お前、まさか最初からそのつもりで・・・」
唖然とする猿野に沢松はニヤリと笑いかけた。それは、いつも猿野に突っ込みを入れたりからかったりするときの顔で・・・
もうどんな顔で泣いていたか忘れてしまうくらい、猿野の中にめらめらと憎しみが沸き起こってくる。
着替えを準備していたということは今までの事を予測していたということで、それはつまりすべてが沢松の思惑通りに進んでいるということだ。
そんなの自分が愚かすぎるじゃないか。
「教科書の脇にパンツとか入れてた昨日のオレの気持ちを想像してみろよ。切なくねぇ?」
「切なくねぇよ!」
「あぁ、切なくなんてない」
「・・・え?」
思わぬ切り返しに猿野の声が詰まる。いつもの掛け合いとはやはり少し違った雰囲気でやったことの重大さを思い知らされた。
「怖かった・・・本当は、怖かった。拒絶されたらと思うとめちゃくちゃ怖くて、でも言わずには、いれなくて」
「沢松」
自分で自分を抱くような格好で、沢松は俯いた。解けたまま乱れている髪がその顔を隠す。
猿野は後ろから沢松を抱きしめた。身体が引き寄せられるように勝手に動いた。
「・・・!」
「拒絶なんて・・・するわけ、ねぇだろ」
「天国」
「今もなんかこうやって抱きしめちゃったりしてるしあ〜〜もうワケわかんねーオレ・・・」
「ハハッ!」
腕の中で、沢松が身体を揺すって笑った。
「結局お前の思うツボかよ・・・」
笑っていた沢松が今度は心外だといわんばかりに首を振った。
「一つだけ、誤算がある」
「・・・なんだよ」
「お前もオレのこと、好きだったってことだよ」
「・・・」
それだってお前の思うツボじゃねぇか・・・それを言おうとして、無性に悔しくなって止めた。
それに猿野は、自分の気持ちは本当は未だよく解らない。友達のままでいたかったという思いもある。けど
「お前がそう言うんなら、そうなんだろうな」
揺れ動く気持ちの中で、その笑顔は失いたくない。それだけは確かだった。







猿野の降服の笑顔に、沢松は幸福そうな笑顔を返した。