ストーブのスイッチを切ればどうしても寒さが身体に感じられ
それに耐えかねて再度スイッチを入れれば、
力技でムリヤリ暖めようとする無遠慮な熱風にうんざりする。

自室のカーペットの上にクッションを引いて座り、テーブルに向かって
冬休みの課題に取り掛かっていた沢松は、やっと動き始めたばかりの手を止めた。
せめて熱風から少しでも遠ざかろうとテーブルを押して移動させるために。
しかし安物で軽いはずのテーブルはなかなか動かない。
思い通りにならない苛立ちにまかせて無造作に力を加えていくと
足がコンセントに引っかかっていたらしく・・・
「うわ!」
コンセントが急に外れてテーブルは急発進して、その衝撃でペンケースが落下した。
沢松も急に動いたテーブルのせいで前につんのめってしまう。
落下音こそカーペットに吸収されて大して鳴らなかったけれど、
派手に散らばったペンケースの中身は沢松の心をささくれさせるのに充分だった。
ち、とめったにしない舌打ちをして、次に自分で自分を余計に苛立たせていることに空しくなる。
観念したようにかがみこんで、散らばった物に手を伸ばす。



シャーペンや定規を拾う手を止めてふと窓の外を見やれば、心とは正反対に
よく晴れ、澄み切った空の端は鮮やかに染まっている。黄色、薄い橙、くすんだ青・・・
そのグラデーションは冬の澄んだ空気を感じさせた。身にしみるその寒さも。
沢松はそして、この空の下で汗を流しているであろう猿野を想った。

さみしい

無意識に、浮かんでくる。
近くに居る時はそのボケ倒しにツッコミ疲れて、多少ウンザリもして、
もういい加減にしろよって思った時も正直、あって・・・それなのに、遠ざかると、なぜこんなにも。
「さみしいんだ」
口にして、そうやって確認することで嫌でも身に染みてしまう本音があった。
確かに、ここにあった。

距離をとったらストーブの熱風は届かなくなってしまって、
また寒さを感じた沢松は自分で自分を抱くように両二の腕をさすった。
足先は一際冷たかった。空気はよどむばかりで、少しも暖かくなんてない。
「あったかいって思える、ちょうどいい距離ってどこなんだろうなぁ」
1人きりの部屋でそれに答えるものは誰もない。大事なのは距離でなく形なのだと。



温度差が結露を呼ぶ。雫が伝うのは窓ガラス、そして―



 
   
BGM... 元ちとせ