「よう」

「うわぁ!?」

木陰で一人ひっそりグラウンドに向けてカメラを構えていた沢松の背中に声をかけたら
こっちが飛び上がるくらい大げさに驚かれて逆に驚いた。

「み・・やなぎ?うわーびっくりした。買ったばっかのデジカメ落としちまったよ」

「驚いてモノ落とすってベタだなーオイ。なにしてんの?」

「犬飼撮ってたんだよ。売れるんだよ・・・あ、ナイショだぞ」

十二支の制服姿はうちの制服を着ていた時より自然で、ちょっとだけ本当の沢松に近づけた気がする。
口調や態度も普通のダチに接しているようで、少し安心した。
やっぱ情報を聞き出したくて馴れ馴れしくしてたって、昨日言われたのは嘘だったらしい。

「猿野の盗撮はしねぇの?」

「・・・もういいってそのネタは。ていうか天国は盗撮するまでもなく自分から写りにくるし。
 そんなことはどうでもいいって。何しにきたんだ?偵察?」

・・・鋭さは跡形もなくなっているらしいが。

「バッカで。なんでオレが十二支ごときを偵察しなきゃなんねぇんだよ」

「そうでもないぞ?今年の十二支はつえーぞー?」

「お前に会いにきたんだよ」

「だから・・・え?」

「わざわざ部活をサボって沢松くんに会いにきまし・・・ってオイ!」

言い終わる前に沢松は駆け出した。大事そうにしていたデジカメすら放り出して。

「デジカメいらねぇのか!」

待て、よりも効果的かと思われる一言を発したけど無駄だった。
報道部には不要と思われる逃げ足の速さでもう背中も見えない。

話したいことが山ほどあったんだが・・・でもまぁ来てよかったか。
顔を真っ赤にして逃げ出したその様子を見て、沢松はもうオレから逃げられないと確信したから。
それで満足したので今日は大人しく帰ることにしよう。
置き土産として、沢松の落としたデジカメに一枚オレの写真を残した。



デジカメをパクれば会いに・・・ていうか取り返しに来てくれるんだろうけど、そんなんじゃ意味がない。
だからまたオレから会いにこよう。いつか沢松から会いたいと思ってくれる、その日までは。