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甲子園の予選で十二支がセブンブリッジ学院に敗れて数日後・・・
3年生のほとんどが部活を引退して新生十二支のスタートのはずなのに、
まったく予定外の「県対抗選抜戦」で部内はなんだかおかしな状況だ。
選手として選ばれなかった1、2年は猪里先輩の指示で練習を開始していたけれど
猪里先輩はまだまだキャプテンの役目に不慣れみたいだった。
でもそれもしかたないかな、と思う。牛尾キャプテン以上にキャプテンなキャプテンには多分
もう一生お目にかかれないだろう。

ところでオレ達の中では誰がキャプテンになるんだろう?
やっぱりたっつーかな。総大将だし。でもなんか総大将っていう今のポジションも
すごく無理してるっぽくて心配なんだけど。
でも、ただでさえ自分を押し込んだような表情の上にさらにキャッチャーマスクまでかぶる
たっつーの本当の気持ちは、オレにはよく解らない。
ただもしたっつーがつらい時、オレに手助けはできなくても、
最後までなにがあろうと味方でいるということだけは決めている。
・・・無条件で、オレはたっつーの味方だ。


たっつーが好きだ


コンビニへ行った帰り道、そんなことをぼんやり考えながら歩いてたら
夜の公園の照明に照らされたベンチに独り寂しげに座っているたっつーの背中を偶然見つけて
びっくりして数分間硬直して何か話すキッカケはないかと色々考えまくって
結局「好きだ」という結論に達してしまうほど好きだ。本人に言えるわけない。


どうしたんだろう?
そんな当然の疑問に、えらく遠回りしてやっと今たどり着いた。
その答えへの近道は・・・本人に聞くこと。
オレ達は友達なんだから、会ったら声をかけるくらいなんの不自然もないはず。
息を吸ってー吐いてー吸ってー
「たっつーじゃん!」
「! 花崎くん」
たっつーはびっくりした様子でオレの方へ顔を向けた。
あんなに心の準備をしてたのに、目が合うとやっぱりおれは平静さを失ってしまう。
カムバック平常心・・・!
「あ・・・あの、いつ甲子園から帰ってきたの?たっつーは応援行ったんでしょ?
 どうだった?あ、結果は猿野にメールもらったから知ってんだけどさ。おめでとう!
 緒戦、雨で無効試合とか超ラッキーだったじゃない?天が味方したっていうか。
 えっと、猿野が選手で出たのは知ってんだけどさ、あいつ自分の自慢ばっかなの。
 他の学校のヤツらも出てたんだよね?あとさ・・・」
自分の顔が赤くなるのを感じた。心臓も煩い。おまけに下唇がかすかに震えてる。
大好きな人を前にして、言いたいことがあるときほどどうでもいい言葉ばかり出てくる。
本当に言いたいことは何も言えない。
これらは恋の病の諸症状だ・・・なんて、うわ。
「え、えっと・・・な、なにしてんの?」
オレのどもる声に、ベンチに座っているたっつーは苦笑いといっしょに答えてくれた。
「月を見てたんですよ」
その顔をまぶしく照らす公園の照明が、スポットライトのようだと思った。
「満月ですよ」
オレの顔を見上げていた視線をさらに上にあげたたっつーの横顔が
「きれいですね」
とてもきれいだと思った。
「・・・あ、あぁホントーだ!よく見えるなぁ」
たっつーに見とれかけていたオレは、慌てて返事をした。
そして・・・
「あ・・・あのさ」
「なんですか?」
「どうしたの?」
「!」
やっと一番聞きたかったことを聞けた・・・けどたっつーは黙り込んでしまった。
聞くことも難しかったのに、答えてくれないとなるとこれはいよいよ絶望的だ。
「・・・『何してるの』の次は『どうしたの』ですか」
「な、なんか、元気なさそうだから」
「そう・・・ですか」
ちょっと怒ったみたいな声。オレはというと、ちょっと泣きそう。
「いやっ話したくないなら全然いいし!」
両手をブンブン振りながら慌ててまくし立てた。
飲み物の入ったコンビニの袋の重さなんて感じてる余裕も無い。
「オ、オレの勘違いならもっといいし!!!それに、オレ・・・」
そこでピタリと言葉を止める。いや、止めざるを得なかったんだ。
オレが力になれることなら、もっともっといいんだけど、多分それは無いんだろうから。
それを心のどこかで悟ってる自分が、情けないと思う。
がむしゃらにぶつかれたらいいのにな・・・

「彼の投げる先に自分がいないこと・・・」
「・・・・え?」
うわ、たっつーに質問しておいてオレは自分の世界・・・最低!ばか!
「・・・どうぞ。立ちっぱなしじゃないですか」
そんなオレの表情を気遣ってくれたのか、たっつーは右手でそっと自分の隣を指した。
「いや、いやおおおかまいなくっ!」
これ以上、気を遣わせてどうする!
ていうかこれ以上近付いたら本当に危ないですいろんな意味で!
「ふふ・・・私も見上げっぱなしで首が痛いんですよ」
「・・・あ、あ・・・ごめ、ん」
それを聞いてオレはたっつーの隣へ座る。自分の鈍感さを呪いながら。



それからたっつーは犬飼の話をした。
秘球の話、特訓の話、他にも何か二人(それと言いようから察するにもう1人他校のヤツ)にとって
とても大きな出来事が起こったらしい。
オレは会話していることの幸せと、自分がたっつーの傍に居れなかったことの悔しさを感じながら
ただひたすら聞いていた。邪魔にならない程度に相槌を打ちながら。
それくらいしか、今出来ることは思いつかなかった。
そして話は試合の事に及んで。
甲子園のマウンドで犬飼の球を受けたのは
自分よりも数倍優秀なキャッチャーであったとたっつーは言った。
「さすがに少しヘコみます」
たっつーはオレを見て苦笑いをする。そして
「私もいつかあの場所に立てるように、もっと努力を重ねなければいけませんね」
付け加えるようにそう言った。

たっつーは自分の実力不足を嘆いてるんじゃない。
ただ犬飼の球を受けれないことが、悔しいんだと思う。
鈍いオレでもそれくらいわかるよ。
たっつーが犬飼を見てるのと同じように、オレもたっつーを見てるんだから・・・なんて。
・・・言えないけど。
「今日の月を見ていたら、なんだかその事を思い出してしまって・・・
 輪郭がくっきりしてるでしょう?はっきりと、見せ付けられている感じがして」
たっつーはいつも犬飼を見ている。それがたっつーにとって辛いことでも
たっつーは犬飼から目を逸らさないんだろうな、と思う。

オレとはまったく遠いところでたっつーは傷ついていたのだと思うとやりきれなくなった。
「厳しいです。犬飼くんがどんどん成長してゆくのに、私は・・・」
それでもたっつーは、犬飼から逃げることはできない・・・いや、しないんだろうなぁと思う。
きっと、ずっと犬飼の事を見て犬飼のために自分ができることを必死に探そうとするんだ。

たとえ何もないと思い知らされても、目を背けることも出来ずに・・・

それなら、せめて
「!?花崎くん?」
オレは咄嗟にたっつーのメガネを外した。
目を背けることができないのなら、せめて曖昧になればと。
そして近くには、オレがいるよって。
「・・・」
きょとんとしていたたっつーの顔が少しだけ赤くなって、その顔が笑顔になった。

「ふ、あは、は・・はっきりと見せ付けられているって・・・そういうことじゃなくて」

笑うたっつーを見て、オレはなんだか恥ずかしくなった。
けれど今まで見た中でそれは一番の笑顔だったから、つられてオレも笑うことができた。
今のたっつーには、オレの顔すらぼやけているのだろう。
よかった。オレはその笑顔があまりに愛おしくて泣きそうになりながら笑ってたから。
曖昧な世界の中で、オレは力強く笑っているように見えたのかな?そうだと嬉しい。
そしていつしかその曖昧さが、優しさとなってたっつーの世界を覆いつくすことを祈る。



そう、オレにはやっぱり祈ることしかできないんだ。














今は、ね。









  

   

***

きっといつかは。そんな決意を胸に
BGM... 山崎まさよし

寿さんが素敵なアフターストーリーを描いてくださり興奮ひとしおでございました・・・!ありがとうございました!!!