「違いますって!そんな風に四角く切ると綺麗に散らないんですよ。こんな風に三角に切って・・・」 「そんなメンドイじゃん!誰も気にしねぇってそんなん!」 組み合わせはあみだくじで決めたと言ってただろうか。 神様も酷なことをなさるもんだと、オレは長机の上でせっせとティッシュを折りながら思った。 オレの向かいには天国。そしてその隣、オレの斜め右には辰羅川が座っている。 どっちかと言うと神経質で几帳面な辰羅川と、大雑把な天国。 大勢いる野球部の中で、単純作業に何もこの二人を選ばなくてもよかろうに神様。 仕事の内容がモノ作りだということで几帳面代表、血液型A型のオレ、沢松健吾が借り出される羽目になった。 いや血液型は関係ない。黙って先に帰ろうとしたところを天国に見つかっただけだ。 ティッシュの花作りを担当する見返りに、帰りに吉牛をおごらせる約束。多分その約束は反故にされるだろうけど。 それがわかってるのに何も言わず手伝っているのには訳がある。天国の隣に辰羅川がいたからだ。 天国を相手にしてる時の辰羅川はそりゃー面白い。さっきだって 「辰羅川さんてA型でしょ?」 というオレの何気ない質問に対する辰羅川の返事は 「いいえO型ですよ。両親共にO型ですから」 こんな、およそO型らしくないものだった。そりゃ親が二人ともO型ならO型にしかなりようないよな、納得。 ていうか天国と一緒なのか。言葉使いや普段の感じで絶対A型だと思ってたんだけど。 「ふーん・・・なんか意外だな。天国と一緒なんて」 「沢松仲間ハズレー」 「べ、別に私は猿野くんの仲間じゃありませんよ!」 こんな風に、本人に自覚はないんだろうけど会話がなんか必死でウケる。 いったい何がそうさせるのか・・・ていうかいったい何に必死なのか、それすらわからないんだけど。 話を戻そう。 今オレ達は野球部の部室で、引退する先輩の送別会の時に使うピンクの紙ふぶきと飾りつけ用の花を作っている。 他の部員達は食料買出しや色紙係、プレゼント係、エトセトラエトセトラ・・・。 天国達「お花係」は技も頭もいらない単純作業だが、なんせ量が多い。 天国は早くも集中力が切れたらしく、切った紙ふぶきをむんずと掴み、目の辺りからヒラヒラと落としている。 紙テープを切っていくだけの作業が、天国には拷問みたいなものなんだろう。 辰羅川は注意するよりも自分ひとりで進めたほうが効率がよいと判断したのか、さっきから着々と紙テープをジグザグに切り進めている。 綺麗な三角が絶えずひらひらひらと散っていく。天国はそれが気に入らないらしい。 不機嫌そうな顔で頬杖を付いたり机に突っ伏したりしている。注意されるとウザがるくせに、かまってもらえないと寂しがる。 「・・・なぁ沢松」 なにか思いついたらしく天国がオレを呼んだ。その声音は明らかに何か企んでいる時のもので・・・ オレは不安と期待が半々の気持ちで、手を止め顔を上げて天国を見る。 ニッと歯を見せ笑った天国は切った紙ふぶきを両手で掬うように持つと、パイプ椅子から立ち上がった。 そして黙々と作業をする辰羅川の後ろに立ち、その頭の真上で紙ふぶきが満杯の手の器をぱかっと割った。 「え?ちょっと猿野く・・・うわ?」 辰羅川の頭は紙ふぶきまみれになる。すかさず天国は腰をかがめ、座っている辰羅川に後ろから抱きついた。 腕と椅子も一緒に抱え、身動きできないようにしている。 慌てる辰羅川の深緑の髪にはピンクの紙ふぶきが数枚くっついたまま。 「ちょっと猿野くん!離してください!何してるんですか!?」 辰羅川の肩の辺りで天国の焦げ茶の髪が揺れている。 「さ、沢松くん!沢松くんからも注意してください」 「辰羅川さん・・・」 顔の距離を少しでも遠ざけようと辰羅川は必死だ。 「頑張って?」 「え・・・」 必死のSOSを突き放したオレのことを辰羅川は不思議でしょうがないという顔で見返した。 辰羅川は勘違いしてる。 オレが天国を諭したり咎めたりするのは、オレ自身に迷惑がかかる恐れのあるときだけだ。 天国の奇行がオレにとって面白い場合は放置。むしろ歓迎。そして今の状態は後者だ。 オレはニヤニヤしながら二人を傍観していた。普段冷静な辰羅川の乱れっぷりが可笑しい。 そして辰羅川をここまで乱すことができるのは、オレの知る限りでは天国だけだ。 「なぁなぁ沢松、どう?」 天国はそれはそれは楽しそうにオレに聞く。言葉は全然足りてないが、言いたいことは分かる。 緑に散るピンクの花びら。そしてその下にある焦げ茶色、これは・・・ 「葉桜だ」 天国に代わって言ったオレの言葉に、辰羅川の顔もピンク色に染まる。 「春が来た」 ピンクの面積が増えて、葉桜が満開に逆戻りしたみたいだった。一足先に花見できた気分。 もちろん普通に桜を見るより何倍も面白かったけど。でもその桜は惜しいことに、あっという間に葉っぱだけになってしまった。 それを見てオレは数年前ヒットした桜の歌を思い出す。 さくら さくら 今、咲き誇る 刹那に散りゆく運命と知って・・・ 「さらば友よ 旅立ちの時・・・ってか?」 満開の桜を見ようとした幹は、今では散った花びらの中に倒れて枯れ木になっている。 葉っぱの無くなった枯れ木に花を咲かせましょうと、オレは手向けの花を一つ天国の頭に乗せてやった。 *** 沢松が最後に猿野の頭に乗せたのはティッシュで作った花です。本文で上手く説明できませんでしたorz 黒い沢松を目指しましたすいません。