「沢松君は臆病ですね」 二人はフェンスを隔てたところに向かい合って立っていた。 一人はグラウンドの隅に、一人は木陰に。 遠くから聞こえるのは、集合を始めた部員たちの奏でる喧騒、頭上をから聞こえるのは鳥の声。 「・・・なんで?」 それらの音の合間をぬって木陰からの声が応える。 手に持ったカメラが、木の葉の隙間から差し込む日光を反射した。 口火を切った人物・・・辰羅川信二はそれをまぶしそうに見、また沢松に目線を戻す。 突如ぶつけられた解り易い悪意に、フェンスの向こうで沢松はただ眉尻を下げ口角を上げている。 「ほら」 ひときわ鳥の声 「そんな風に、他人に嫌なことを言われても困ったように笑うだけ」 そして、木々の葉がざわめく音。 「人と争うことが怖いですか?」 ピクリと沢松の表情が強張り、そして弱弱しい声。 「オレはね、戦わずして勝ってるんだよ」 という。 遠くから聞こえるのは部活の始まりを告げる声。 「それは嫌われることを恐れているんですよ何よりも。 あなたが好きだと思っている人はもちろん、嫌いだと思ってる人にまで」 私に嫌われることすら怖いでしょう?という言葉を最後に投げつけ辰羅川だけがその中心へ向かう。 沢松はただ、区切られた柵の向こうで手にしたカメラを握り締めた。 フィルムも無駄に現像する写真もなくなった今、沢松がやっていることの証明は その中に記憶された見えないCCDの積み重ねだけ。 真新しい銀色の箱、その中に収められるのはいつだって自分以外の輝く姿。 見守ることと傍観との違いが、沢松には未だよくわからない。 *** 辰羅川と沢松は似ていて、似てるからこそ相容れないというのが持論です。