まるで手を繋ぐように誰かと誰かの心をを繋げられたらよかったのに
出会ったのは偶然だった。
部活が休みで、一人で華武に偵察に来ていた辰羅川と
部活をサボり、さっさと遊びに行こうと華武高の前を通りかかった御柳。
目が合った瞬間、音も無く。
そこにあったのは驚き。
そしてゆっくりと御柳の中に頭をもたげ始めた感情。
「なにやってんだよ」
とちょっと笑ったら辰羅川もほっとしたように顔を弛緩させた。
その笑みが含んだものを知らずに。
「ちょっと話さねー?」
そう言って御柳は辰羅川の手を掴んだ。
あまりに酷い壊れ方をしてしまった友情のもと、数年前までは笑いあっていた三人のうちの二人。
三人が二人と一人に別れてしまったのは、まだそんなに遠くない昔のことで・・・
御柳は今度こそ、その手を離さないようにと
辰羅川の手をしっかり掴もうとしていたのかもしれない。
そのあまりに力に辰羅川は声をあげたがそれを気にする様子も無く
まるで自分の心の中に引きずり込むように、ぐいぐいとその手を引っ張るだけだった。
そうやって無理矢理辰羅川が連れてこられたのは野球部の倉庫。
部活の準備がすっかり完了した今は他の野球部員の姿はない。
通気性など無視された暗い倉庫、山積みの折れたバットや丸まった防球ネット、
鉄アレイやバーベルやラダーなど・・・まるでひしめくように押し込められた
その場所は、埃とカビの入り混じったような匂いがする。
射すようなカビ臭さと押しつぶされそうな暗闇に辰羅川が顔をしかめると
御柳が後ろから思い切りその背中を押した。
丸められた防球ネットの上に突き飛ばされるのとほぼ同時に
がらがらがらと、狭い箱のなかに響く轟音。
外からの光が徐々に細くなっていき、やがて完全に途絶えた。
重い鉄製の引き戸が閉められ暗闇が空間を占めると
御柳はまるで何かの合図のように黒の床に噛みかけのガムを吐き捨てる。
辰羅川は震える指をネットに絡ませながら、突然のことに
ただ呆然とその気配を感じているだけだった。
未だに状況は理解できていない。ただ、本能的に恐怖を危険は悟っている。
「みやな・・・
言い終わらないうちに御柳は辰羅川の頬を思い切り張った。
その乾いた音は折れたバットの山と辰羅川の体がぶつかった音でかき消されてしまう。
「ぁ・・・」
弱弱しい声が聞こえる方へ歩み寄り、暗闇のせいで黒い塊にしか見えない辰羅川の上にのしかかる。
姿は見えないけれど、服を通して感じる体温で間違いなく
自分の下に辰羅川がいるということが御柳にはわかった。
ボタンの感触を感じたから、その部分を一気に左右に引き裂けば
カツン、カツンとボタンがそこらじゅうに散らばる音が聞こえた。
御柳はなぜかそれが可笑しくて、少し声を出して笑う。
「御柳君!!」
小さな声では、にじみ出る恐怖をきっと悟られてしまう・・・と
辰羅川は狭い空間に不釣り合いな大声をだしたけど、
それはなんの効果も得られないまま暗闇に吸い込まれていく。
目の前のなにか黒い塊が顔に近づいてきたかと思ったらそれがそっと口付けた。
御柳と自分とを阻むものが何も無いことで辰羅川は自分が眼鏡をしてないということにやっと気付く。
さっきバットの山に倒れこんだ時にはずれてしまったのか・・・
そんなことを混乱した頭の中で妙に冷静に考えていると唇を割って、ゆっくりと舌が進入してくる。
心臓の鼓動はうるさく歯は恐怖でカタカタ小さな音を立てていた。
その音を聞かれまいと辰羅川が歯を開くと
御柳はまるでそれを見計らったように舌を滑り込ませる。
辰羅川は肩を押して必死に離そうとするが、びくともしない。
角度を変えて舌が奥へ入り込もうとするたびに、
背中に当たる折れたバットたちがカラカラと音を立てて、
辰羅川はまるで自分が、「自分たち」でなく自分一人だけがあざ笑われているように感じた。
ようやく口を解放され、飲みきれなかった唾液がいまだじんじんと熱を持つ辰羅川の頬を伝う。
互いに暗闇に慣れてきた目で、二度目の視線を交わす。
「辰羅川」
そう言って口の端を持ち上げた御柳に、辰羅川は痛みの残る背中に寒気を感じた。
自分の名前を呼ぶその声、それは間違いなく御柳のものであり
安心するとともになぜ彼がこんなことを?という新しい恐怖が浮かび上がる。
すでに引き裂かれた制服のシャツ、そこに手を這わせ御柳は胸の飾りに爪を立てた。
「っ?あうっ!!」
「辰羅川 辰羅川 辰羅川」
まるで心地よいメロディのように呟いて、御柳は耳たぶに舌をそっと這わせた
その感触に辰羅川は体を強張らせる。
「ひ、あ・・んぅ」
「気持ちよさそうだなー?」
必死に声を押し殺す辰羅川の胸を弄びながら、しばらく耳たぶの感触を
愉しんでいた御柳は、顔を離して恐怖の中に羞恥と快楽が見え始めたその表情を満足げに眺める。
「御柳君、どうして・・」
今日出会って初めてのまともな会話。しかしそれは会話と呼ぶにはあまりに短すぎて
「辰羅川」
名前を呼ぶという、本来会話の開始の合図であるはずのそれによって終了した。
くっ、っと喉の奥で笑って、御柳は辰羅川のズボンに手をかける。
ベルトを器用に外し、ジッパーを下ろして下着の中に手を入れて
なんの躊躇も無く自身を握った御柳の手の温かさに辰羅川は寒気を覚えた。
「ちょっと!御柳君っ」
辰羅川がその行為を止めようと起き上がったとき、背中のバットがまたカラカラと音を立てた。
「うるせーよ」
バットに向けての言葉なのか辰羅川に対しての言葉なのか
御柳は苛立ち気に舌打ちをすると辰羅川の頭を防球ネットの上に押さえつけ、
下着からいったん手を出して辰羅川の両手をネットの紐で縛り上げた。
「い、痛・・・」
「紐細いからヘタに暴れると怪我するぜ」
そしてまた愛撫を再開する。
丁寧に辰羅川の中心部を撫で付け擦りあげていくと、そこが徐々に硬くなっていく。
「う、あ・・・んぅ」
きつく目を閉じて必死に耐える姿。
いつからそういう風に自分を押し殺すようになったのだろう・・・と
御柳は滲み始めた先走りの音を聞きながら考えていた。
あの頃俺たちがケンカしてると、間に割って入ってきて煩いくらいにわめいていた。
自分が殴られたわけでもないのに、辰羅川だけが泣いていた。
昔のことを思い出して、苦い気分になる。
築くことより壊すことの方がいとも容易くて
気付くことより知らないふりの方がよっぽど難しい。
「・・・く、ぁ」
意思とは関係なく始まってしまった思考を振り切るように少し乱暴に先端に爪を立てると
辰羅川の体がビクンとかすかにはねた。
きつく閉じられた目に、涙が浮かんでいるのが見える。
噛んだ唇からは血が滲んでいる。
「思いっきり泣き叫べよ」
昔みたいに。
御柳が少しの哀れみを込めて言ったその言葉にちらりと薄目を開けて反応した辰羅川だったが、
またすぐに快楽の波に備えるように目を閉じてしまう。
かたくななその態度を見て愛撫の手を止めた御柳は
辰羅川のズボンを下着ごとひざの辺りまで下ろした。
「!!つぅ」
とっさに自由の利かない手を使って止めようとした辰羅川だったが
拘束された両手には細い紐が食い込み、体を起こすことすら叶わず
余計な苦痛を与えられただけだった。薄い皮がむけ、血が少し滲んでいる。
それを無表情に見つめていた御柳が辺りをキョロキョロと見回すと
辰羅川がメモ用に持ってきていたシャーペンを見つけた。
持ち主と同じように細身のそれを、芯が出ていないことを確認してから
なんの前触れも無く秘部に突き立てた。
「あああぁぁっー!?」
突然身を裂いた痛みに辰羅川の眼からこらえ切れなかった涙がこぼれ、床にシミをつくる。
「あ、あ・・・嫌だ、や、みや、なぎ君」
ここにきて初めて見せる哀願の目。
しかしそれが御柳の心にまで届くことは無かった。
ゆっくりと円を描くように、辰羅川の奥へと侵入していく。
「い、いた・・・」
容赦の無い苦痛と異物感に、辰羅川の額には汗が浮かんでいた。
御柳はその様子を黙って見つめ、ただ機械的な動きで行為を続ける。
「!?んあぁ!!!」
ある一点で辰羅川の声を上げた。御柳はそれを待ち構えていたようにその一点を
集中的に突きながら、萎えかけていた辰羅川の自身にも愛撫を加え追い詰めていく。
「やぁ・・・う、あぁぁあぁ!」
前後から責められて、辰羅川は御柳の手の中に放ってしまった。
「あ〜あ・・・オマエ何こんなもんでイッちゃってんの」
シャーペンで、赤く染まった頬を軽く叩き、くつくつと御柳は嗤った。
辰羅川が顔を背け拒絶の意思を見せると、そのあごを掴み無理矢理自分の方をむかせ
無理矢理口に白濁にまみれた指を押し込む。
口の中に広がる苦味と噛み付きたい衝動に顔を歪めながらも、必死に舐めとろうとする。
けれどさっきの行為と同じように自分の意思とは無関係に侵入する不快感で
反射的に咳き込んでしまった。
その隙を逃すまいと、御柳は辰羅川の腰を抱え込み
辰羅川の唾液と精液で濡れた指を、秘部に2本一気に突き立てた。
「っあぁ!!」
ただの物質でしかないシャーペンに比べれば比較的楽に受け入れられたものの、
その質量の多さに圧倒され辰羅川はひじを折り上半身を床につけてしまう。
自然に下半身だけが浮いた格好になった。
「オマエすげ、エロい格好・・・」
「・・・く」
左腕で腰を抱え、右手の指を辰羅川の中で動かす御柳。
辰羅川は必死に睨んだけれどそれも無駄なことで、抵抗にすらならない。
御柳を愉しませただけだった。
「もう勃ってきてんじゃん。シャーペンだけじゃ足りなかったのかよ淫乱」
体を犯す快楽に負けても、心を侵す言葉には決して屈しまいと
辰羅川は拘束された両手の拳をを力いっぱい握り締める。
切りそろえられた爪が、自分の掌を傷つけているのを感じた。
「そろそろいいかな・・・っと」
根元まで挿入していた指を抜き取り、すでに硬くなっていた自身を取り出し
辰羅川の秘部にあてがう。
「なっ――――」
これから行われることを察した辰羅川の制止の声を聞く前に
御柳は一気に突き上げた。
「あああぁぁああぁぁっ!」
指とは比べ物にならない質量が自分の中を埋めていく痛みと
内腿を生暖かい液体が伝うのを感じた。
「ちっ・・・力抜けよ」
「はぁ、あ・・・はぁ、そん・・無、理っ」
それでもゆっくりと腰を動かし、弱い部分を重点的に攻めると
辰羅川の声が徐々に甘いものになっていく。
御柳はその行為を、何か二人の時間の空白を埋めるように感じていた。
そんな自分を自嘲し、ギリギリまで抜いて一気に突く。
「んあぁっ!」
辰羅川の声に快楽の色を読み取り腰の動きを徐々に早くしていく。
それに比例するかのように卑猥な水音と色声が暗闇に響き渡った。
「みや、なぎく・・・あぁ!!」
「くぅ・・・」
辰羅川が果て、その後を追うように御柳も中で達した。
「ん・ぅ・・?」
電灯のまぶしさを感じ眼を開けると、目の前に御柳の顔があった。
辰羅川が手を動かした時きつく締まってしまった手首の紐を解こうとしている。
まだ朦朧とする意識で自分の状態を確認すると
上半身は相変わらず砂と汗で汚れた制服が着せられていたが
ズボンはちゃんと元通りにされていることに気付く。
「動くなよ」
イラついたような声で御柳が呟いた。目線は結び目を見つめたまま・・・
「切ればいいじゃないですか」
「バカ言うなって。監督にバレたら殺されるっつーの」
「相変わらず後先考えないんですね・・・」
口をついて出た「相変わらず」という言葉。
必死に結び目を緩めようとするその真剣な瞳に昔からよく知っている表情が重なる。
おおよそ今の状況にはふさわしくないものではあったけれど
その感情は辰羅川を切ない気持ちにさせているようだった。
「昔のことを覚えていますか?」
「は?」
「三人で手を繋ぐ時、私がいつも真ん中でしたね」
「・・・黙ってろ」
「私は・・・自分が二人を繋いでいるようで嬉しかったんです」
そのセリフを聞いた御柳は噛み始めた新しいガムを膨らませ嘲笑った。
「はっ・・・相変わらずてめぇはくだらねーな辰羅川」
手首を締め付けていた感触が緩み、辰羅川の手が解放される。
それと同時に脱力した手がひざの上にパタリと落ちた。
「まだそんな夢見てんのかよ?今さらお前らと一緒に友情ゴッコする気はねぇよ。
オマエがあの負け犬ヤローと手を切って俺のところに来るんなら別だけどな」
立ち上がった御柳を焦点の定まらない目で見上げると、
辰羅川の目の前に真新しい白いTシャツが降ってきた。
御柳が部活用のカバンから取り出したものだった。
「俺は辰羅川のことは今でも好きだぜ」
そう言って重い引き戸を開け御柳は出て行った。
戒めを解かれた手を見つめながら辰羅川は考えていた。
かつて、二人を繋いでいた自分の片手が振り払われて、三人が二人と一人になった。
この小さな手では、もう自分と誰か一人を繋ぎとめておくだけで精一杯なのだろうか・・・
血の滲む手首と、薄皮のむけた掌が涙で滲んでいく。
いつか、もう一方の手さえも振り払われてしまう時
それを思うととても恐ろしくなる・・・。
思わず両手で顔を覆い、涙で濡れた掌をあわててズボンにこすりつけた。
手を滑らせたら大変。
昔、三人が二人と一人になってしまったように
今度は三人が 一人と一人と一人になってしまうから