聞いて欲しかったと目の前の彼女は泣きながら言った。 私の話を聞いてほしい、そしてあなたの事を聞かせてほしい。 目の前の女は(その時点で御柳の中では「彼女」ではなくなった)もっと話を聞いてほしかった。寂しかったという。 御柳にはそれがわからない。御柳は他人に自分の話を聞いてほしいと思わないし、それを寂しいとも思わない。 その時点で目の前の女とは相容れなかったのだ。とすぐに諦めもつく。 一方、彼女はそんな御柳を許さなかった。 諦めと許さないとでは激しさの度合いが違うが、互いに一緒にいたくないという意見だけはめでたく一致したから その場で明日の無いサヨナラを交わし、永遠に別れた。 ※ 「あなた、それはいくらなんでも酷いんじゃないですか」 あらかた顛末を話し終えた御柳に向かって辰羅川は非難めいた口調で言った。 話したかったから話したわけじゃない。彼女と別れたとうっかり口を滑らせたら、どうしてと聞いてきたのだ。 めんどくさいと思いつつ、話さなかったらもっとめんどくさい事になるから、話した。 「だって、話なんていつもしてるじゃねーか。聞き役のオレのことも考えろよ」 「どうせ生返事ばかりだったんでしょう」 「だってよ・・・」 言葉の代わりに噛んていたガムを膨らませる。 はじけたガムからは甘い香料が香るだけで、言葉の続きは御柳の喉の中に残ったままだった。 ガムは甘いが、苦々しい言葉が。 「ったくめんどくせぇ・・・」 「ほら!そういうところがいけないんですよ」 感情移入しているのか自分のことのように腹を立てている辰羅川を、御柳は切れ長の目の端でとらえる。 女に感情移入する理由が御柳にはよく解らないのだが、自分に感情移入するよりは、まぁありえることだと思った。 少なくとも辰羅川らしくはある。 「あなたは相手に何も話さないくせに、自分の事を解ってほしい思ってる。そんなの傲慢です。そんな人間いない」 その言葉に、御柳は思わず笑ってしまった。 御柳の笑う理由がわからず戸惑う辰羅川に自分の言葉に隠された矛盾を教えてやると 辰羅川は耳まで真っ赤にして俯く。 その顔にそっと囁きかけた。 「やっぱりお前だけは言わなくてもオレのことちゃんと解ってくれる」