県対抗戦に向けての練習中。 腕を組みベンチに座る雉子村の金髪に顎を乗せ、鵙来は妙な歌を唄っとる。 「しっちがっついっつかはなんの日や〜〜〜〜♪」 音程も無くリズムも微妙極まりないそれを、ホンマは歌とは言わんのかもしれへん。騒音や。 雉子村さんは明らかに迷惑そうな顔で「ウルサイ」言うとるが、まったくお構いなし。 それを蓮角さんがクスクス笑いながら見とる。 7月に入り頻繁に聴かれるようになったその歌・・・?のせいで 急遽召集された大阪選抜メンバーの中でも、それがなんの日かは周知のもんになっとる。 気難しそうなメンバーの中で、鵙来さんの存在はとても大きなもんやった。 実力はもちろんのこと、その性格も。 ともすれば自分の世界に閉じこもりがちな雉子村さんや、一癖も二癖もある蓮角さん。脳筋鷹羽さん。その他もろもろ。 実力者揃いである反面、それぞれの個性が強すぎる大阪選抜で、彼の明るさはチームの潤滑油のようなもんやった。 明日、7月5日は、そんな彼の生まれた日。 「鴨神ぃ?どないしたん」 電話の向こうから聞こえるのは鵙来の驚いたような声だけやった。騒ぐ声は聞こえへん。 彼の性格からして、友人たちと騒ぎ立て誕生日を祝っとるかと思っとった僕は、ひとまずほっとした。 「どないしたんて・・・誕生日だから電話したんですよ。おめでとうございます」 「せやかてまだ12時まわったトコやで。ホンマに時間に几帳面なやっちゃな〜」 鵙来は大声で笑った。それが電話越しであることがとても惜しいことのように思える。 「べ、別に5日になるの見計らって電話したわけじゃないですけど」 「ハハッ、おおきにな〜鴨神」 ・ ・ ・ 「ずいぶん喋ってしまいましたね。では明日も練習で早いですし、もうそろそろ切ります」 「ん、ほなまた明日な!」 「なに言ってるんです。もう『明日』は来ていますよ」 「相変わらず鴨神のツッコミは鋭いな・・・ずっと先の分まで、またな!ってことや」 「はいはい、おやすみなさい。遅刻しないようにしてくださいね」 「わーっとるって!ほな、おやすみ」 通話を切った後もしばらく握り締めていた携帯が手の熱で熱かった。そしてなんとなく、胸も。 愛用の腕時計を確認すると、針は長針どころか短針まで12とはかなり離れたトコにあった。 もうそないに経ってしもうたなんて。僕が、時間を忘れるやなんて。 彼は鷹羽さん以上に要注意かもしれへん。 気になってしゃーない。気になって眠れんかも。彼も、時間も。 僕は今夜、何回時計を見るんやろう? すでに1回。 『明日』まで、あと何時間? *** 明日が待ち遠しいということほど幸せなことはないよ。 鵙来の誕生日には大阪選抜なんて影も形もありませんがまぁそこは・・・限りなく原作に近いパラレルよ。