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雨雲が空一面を覆っている。早く帰らないと雨に降られてしまいそうだった。



部室には猿野天国と辰羅川信二の2人がいる。
今日は日曜日。野球部は午前中だけ部活があった。
練習後の汗の臭いと人いきれに淀んだ空気を外に逃がすためか、窓は半分だけ開けられている。
そのせいで2人の何やら言い争う声は外にただ洩れだ。
「これ以上邪魔するのなら、削りたての鉛筆で思い切り背中を突き刺しますよ」
「いや、だってよ〜・・・ってモミー今なんか具体的に痛そうなこと言った!?」
この2人のコントのようなやり取りは、毎日のように繰り返されている。

本来の使用目的よりも、物を置く場所として使われることの方が多い部室の机。
今は何やら数字や細かい文字のびっしり書かれた紙が所狭しと乗っかっていて
椅子とセットで正しい使われ方をしている。
辰羅川は、部活が終わり制服に着替え終わったあとも1人残って何やら作業をしていたらしい。
「とにかく帰ろうぜ!雨降りそうじゃねーか。モミー傘持ってねぇんだろ?」
置き傘・・・というよりは持って帰るのが面倒くさくてロッカーに放置してあった傘。
あまり使っていないからか新品同様のそれを、自慢げに掲げてみせる。
辰羅川は机の上の紙から視線を上げてそれをチラリと見、ため息をついた。
「ですから、私はこれが終わるまで帰りませんし、帰る気もありませんと何度言ったら・・・」
そこで言葉を切った辰羅川は、もう一度・・・こんどは額に手を当ててため息をついた。
雨が降り出したのに気付いたからだろう。

部室の屋根に隠れた所と隠れていない所・・・地面の色がみるみる違っていく。雨脚はそれくらい激しい。
「あ〜あ言わんこっちゃない」
「わ、私のせいですか?」
辰羅川は心外だと言わんばかりに椅子から軽く腰を浮かせた。
「うんにゃ、多分オレのせい」
そう言うと、その雨男は
「おも〜いではぁ〜いつの日もぉ〜お、あめぇ〜」
と大声で歌い始めた。辰羅川はさぞかし迷惑だろう。

「ま、そんなワケだからオレの傘入ってけよ!イヤンvモミ様と愛愛傘vV」
一通り熱唱し終わり、くるりと辰羅川の方へ向き直り言う。
「漢字に一部不適切な部分がございましたのでお断りいたします。ていうかどんなワケですか」
「え?なんでわかったの?モミー実はエスパー!?じゃ相合傘でいいから!」
「で・す・か・ら!私はこれを終わらせてからじゃないと・・・」
「まぁオレとしても終わるまで待っててやりたいトコなんだが、生憎そうもいかねぇんだな」
天国は頭を掻きながら困ったような顔で校舎の・・・生徒玄関の方をチラリと見た。
そして手をそのまま後頭部で組み、部室に備え付けのぼろぼろのベンチにドカっと座る。
その風圧で、空を覆っている雨雲に似た綿埃がどこからともなく飛んできた。

ベンチに寝転ぶように座って天井を見上げる。そうやって見たロッカーの上に何かを見つけたらしい。
足で反動をつけて立ち上がり、そのロッカー・・・ちょうど辰羅川の座っている正面あたり。
その上の何かをとろうと、背伸びしたり軽くジャンプしたりしている。
辰羅川はといえば、呆れかえっているのか無視することに決めたのか、背中を丸めて黙々とペンを動かしている。
しかしその集中はずぐにぶった切られた。ロッカーの上に保管・・・
というか無理矢理置かれていた古いボールの入ったカゴ、分厚いアルバム、何が入っているのかもわからないダンボール。
その他いろんなゴミが次々とけたたましい音と共に落下してきたからだ。
「何してるんですかあなたは!」
辰羅川はさすがに立ち上がり、ゴミの一部を思いっきり受け止めた頭に向かって声を荒げた。
辰羅川も別の意味で頭が痛そうだ。
「まったく・・・私に三象先輩ほどの腕力があれば、あなたを力ずくで追い出すのに・・・」
「えぇ!?マッチョなモミーなんてオレ嫌だぜ!明美、そのままのほっそーいモミ様が好・きぃいってぇ!!!」
辰羅川は落ちてきたアルバムの背表紙側で、タンコブの出来た頭を思いっきり殴った。
「そうですね叩く時も面積の狭いほうが痛いですし!」
「いって・・・ちょ、本当に痛い・・きいた、これマジ・・イタ」
「まったくあなたは何がやりたいんですか。私の邪魔だということは分かりますけど」
「ち、ちげーよ!ホラ!!」
埃まみれの手で辰羅川の前に差し出したのは、ゴミの山から取り出した1本の傘だった。
「傘発見!」
「・・・」
ナハハ、と笑う顔と差し出された傘を見て辰羅川は言葉を失った。
それを余所に当の本人はでもこれボロいなー・・・と傘を見て呟いている。
手が汚れているのもお構い無しに頭をバリバリ掻きながら。
実際、その傘はパッと見でも分かるほどにボロボロだった。
穴は開いているし骨も折れて三角形のフォルムを保っていない。
それでもその傘を大事なものを扱うみたいにロッカーに立てかけ、落ちてきたゴミの類を元に戻し始める。
背伸びをしてギリギリ届くくらいの高さだ。

「うっし!帰るかね」
最後のアルバムを戻し終え、天国はロッカーに立てかけてあったボロ傘を取り、開いている窓の方へ歩み寄った。
充分に空気が入れ替わったと感じたからか、それとも辰羅川が肌寒さを感じないようにか。
窓の閉められる音がして、それから程なく部室のドアが開く音がした。
「じゃーな!オレ帰るけど、ほどほどにしとけよ!」
返事は聞こえない。
ただ、出て行く背中を追いかけるように伸ばされかけた辰羅川の手の動きと、ベンチの上に置きっぱなしの新品同様の傘と
その傘と締まったドアとを交互に見る表情が、印象的だった。
そうして窓ガラスの向こう側でかすかに動いた唇。それは・・・確かにありがとうと言っていた。









天国は持っているボロ傘も差さずに雨の中を駆け出した。
生徒玄関で待ちくたびれているはずの『オレ』の元へ急ぐために。
「天国!!」
その背中をオレは雨音に負けないくらいのボリュームで呼び止めた。
天国の心底驚いた顔は、待ちくたびれたオレを少しだけ愉快な気分にさせた。

・
・
・

ますます激しくなった雨の中、オレ達はやっと帰路に着くこととなった。
ボロ傘の穴からは雨水がだらだら浸入してきて、オレと天国の肩を濡らしている。
「つーか沢松、お前いつからいたんだ?」
「ん・・・お前がちょうど部室から出てきた時からだよ」
さすがに窓からコッソリ一部始終を観察していたとは言えない。
「お前が置き傘とりに行ったきり帰ってこねーからだろが!
  このハンサム様を待たせるたぁいい度胸してんじゃねーか」
「あー・・・傘が、なかなか見つかんなくて」
嘘つけ、という言葉をオレは寸前で飲み込む。
「・・・ははっ、にしてもひでぇ傘だな。入れてもらってなんだけど
  これなら小降りの間に走って帰ったほうが被害少なかったんじゃねぇ?」
オレはこの傘を使うはめになった理由を知ってて聞いた。
無論、待たされまくったことと肩が濡れまくっていることへの腹いせだ。
「ん・・・わりぃ」
天国は小さな声で謝った。てっきりふざけた調子で反論されると思ったのに。調子が狂う。
「ごめん沢松」
「・・・いーけど」
雨に濡れた帰り道・・・天国が無言でいる間オレは、オレ達の肩を濡らす原因を作った人物の事を考えていた。
天国の反応と、辰羅川のあの表情、聞き取れなかった言葉、唇の動き。


雨降って、地固まるかもしれない。
新しい流れが出来るかもしれない。
きれいな花が咲くかもしれない。

辰羅川、絶対に天国の傘、使えよ。そんでオレのいるときに天国に返しに来い。
2人まとめて思いっきりからかってやるから。




それがオレの、この肩の冷たさに対する2人へのささやかな復讐だ。











***

津波奈津さんリクの「ツンデレDV気味の猿辰」でした。
沢松も出していただけたら嬉しい(そのリク私が嬉しかったですv)とのことでしたので超出しました。
(リク内容を利用して三人称視点と見せかけて沢松視点という叙述トリック的なものを目指してみました)

リクエストありがとうございましたv