学校からの帰り道、天国の話の節々で相槌を打つ。
たったそれだけの行為がこんなに苦痛だとは思わなかった。
それでも天国が話しを続けるということは
オレはそれなりに楽しそうに相槌を打てているということだろう。
その事実に少しだけ安堵する。まだ大丈夫だって。
「それでよ!凪さんが・・・」
天国が凪ちゃんの話をするとき、オレは決まって昔のことを思い出す。
凪ちゃんに出会う前の天国とオレのことを。
話をちゃんと聞くのが辛いというのもあるけど多分、探し出したいんだと思う。
オレにあって凪ちゃんにないものを。
そんなコトになんの意味も無いって解ってるのに。
二人一緒に居た長い時間をひっくるめても
彼女には敵わないって思い知らされるだけなのに。

知りたくなかった。この気持ちが寂しさじゃなくて嫉妬だ、なんて。
心の中でくすぶり続けていたそれに気付いたのはつい最近のことだったが・・・
いっそのこと、一生気付かなきゃよかったのに。
みっともないって解ってる。汚いって解ってる。許されないって知ってる。
でも駄目なんだ。天国が幸せそうに凪ちゃんの話をすると思い知らされて。
天国のことが好きだって、好きで好きでどうしようもないって。
自覚してからはその想いは募るばかりだった。バカみたいに。本当バカなんだけど。
募りすぎた想いで押しつぶされそうになる。
踏み切りの前でオレは立ち止まってしまった。
「沢松?」
線路の上で天国が不思議そうな顔を向けている。

ガキの頃から築いてきた友情、あるいは思い出という土台の上に
どっしりと乗っかってしまって動かない「好きだ」という気持ち。
積み重なったその余計な気持ちを突き崩して、また友情と思い出だけが残ればいいのに。
でもきっと人の気持ちはそんな風に綺麗に消えてはくれない。
オレの気持ちを言えば、天国は戸惑うに決まってる。
今のままでいいじゃないか。
恋愛の中では一番になれないオレでも友情の中でならきっと一番だ。
友達でいい・・・友達がいい。

「おい沢松!なにボーっと突っ立ってんだよ、行くぞ」
葛藤の末、自分の欲望に競り勝ったオレの手を天国が掴んで強引に引っ張った。
それで、もうオレは駄目になった。
ギリギリのところで踏みとどまった努力は水の泡。
手を引っ張って、そのラインを超えさせる。背中を押して真っ逆さまに突き落とす。

「オレも女の子だったらよかったのに」

「沢松・・・?」
言わなくていい言葉が募りすぎた想いに押し出されていく。
「でもそれだったら、お前のこんな近くには、きっといられなかったな」
「・・・何ぼそぼそ言ってんだ!?聞こえねぇよ」
そう来るか。聞こえてないはずないのに。この距離で。
「天国!オレお前のこと好−−−

カンカンカンカン−−−−

遮ったのは、甲高い音
オレの言葉は踏み切りの警告音にかき消された。
あわてた様子で踏切から出てきた天国がオレの隣に並ぶと、
それとほぼ同時に目の前に黒と黄色の棒が降りてくる。
なぜか手と手は繋がったままで、天国は無言だった。

伝えたらそれで終わり。二人の今の関係まで壊れてしまう。
踏み切りの警告音はそのことへの警告なんだろうな、とオレは苦笑した。
「・・・なぁ沢松。オレお前のことも好きだぜ」
鳴り響く警告音の中、小さな声で確かに天国はそう言った。
言葉は同じでも意味が違う。
それを解ってて、それが優しさからなら、そんな言葉いらないのになぁ・・・

そして通り過ぎる電車の轟音。音もなく開いた踏み切り。
「行こうぜ!」
オレの手をひっぱる天国の手の温かさ。
この手を離したくないから、泣けないオレはとにかく笑うしかなかった。
想いを伝えることよりも、近くに居続けることをとったオレはきっと臆病者。






一生
だれよりもちかくにいる
片思い


                                                          

      


***
     
ご紹介いただいた沢→猿ソング!!!
私の筆力じゃあの雰囲気をだすことは出来ませんでしたorz 悔しい。
BGM...HY