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1年に1度だけ、行く場所がある。
私の家から彼の家へ
子供でも行き来できる程度の距離しかない。
私たちはそういう距離の中で、今とても遠くに離れている。


このまま永遠にたどり着きたくないとも思うし
決心が鈍る前にさっさと着いてしまえばいいとも思う。


そんなことを考えている間に私の足は物理的な距離を縮めていく。
それはやはりとても近いもので、あの2人には適わないまでも
成長した私の歩幅は、子供のころよりも早いスピードで私を目的地へ運ぶ。
毎年同じことを考えているかもしれないけれど、子供の頃、彼の家はもっと遠いと思っていた。
心は遠く離れてしまったみたいなのに、昔より近い・・・なんて可笑しな話だろう。


抱えた紙袋がかさかさと音を立てた。


まだ6時前なのにあたりは暗くなり始めていた。
秋が夏を追い立てるように、1日が過ぎるごとに日は短くなっていく。
彼の誕生日が来るのは、そんな時期だ。
電灯の明かりが秋の夕間暮れをぼんやりと照らす玄関で
私は呼び鈴を何度も鳴らした。

返事は無い。

私はガッカリしているのだろうか?ほっとしているのだろうか?多分両方だろう。
そんな自分に少し呆れ、帰ろうか・・・そう思ってきびすを返そうとした時

「誰もいねぇよ」

彼が・・・御柳くんが背後に立っていた。
肩にバットを担いで、右手にはカバンを、左手には大きな紙袋を持って。
「邪魔なんだけど」
「御柳くん・・・」
道をあける
「一回鳴らして誰も出なかったら帰らねぇ?普通」
左手の大きな紙袋を無言で突きつけられ、受け取る。
中には手作りらしきお菓子や可愛いラッピングの包み・・・
恐らく帰り道、ファンの女性たちに待ち伏せにあったのだろう。
制服のポケットから鍵を取り出し乱暴に鍵穴に突っ込んだ御柳くんが、左手をまた無言で突き出した。
私はその手に、預かっていた大きな紙袋を差し出す。
「そっちじゃねぇよ」
「?」
「俺にだろ?それ」
私の持っている青い小さな紙袋を指差しながら
「毎年毎年、飽きねぇのな」
「・・・」
「さっきから何回呼び鈴鳴らしてんだよ。後ろに気付きもしねぇで」
「・・・」
指差した左手はあっと言う間に私の手から青の紙袋を奪ってしまう。
かさっと、貧弱な音がした。
「今年もタオル?」
中身も見ずに、開けもせずに
「はっ、ワンパターン」
どうしてそんな風に笑うのだろう・・・
「玄関先に置いときゃいいだろ」
「・・・」
その言葉への返答につまり無言で俯くと、そこに見えるのは大きな紙袋の中身。
プレゼントだけを置いていったら、御柳くんは気付いてくれただろうか
それが、私からのものだと。
もしかしたら、このきらびやかなラッピングの中に埋もれて
開けられないまま忘れ去られてしまっていたかもしれない。
それだけは嫌だった。
よしんば開けてもらえたとしても、私からだと気付いてもらえないかもしれない。
それはもっと嫌だった。
モノだけを渡したかったわけじゃない。
もしかしたらプレゼントなんて口実なのかもしれない。

「ただ会いたかった」多分、それが本音。


「辰羅川」
「御、やな・・・く」


会えなかった

こんなに近くにいるのに

会いたかった

心はもう遠いかもしれないけれど




「・・・なに泣いてんだよ」
ふぅ、という大きなため息が聞こえて
かさっ、という貧弱な音のあとやわらかい物が顔に触れた。
ふわりと、重さの大部分を失った青い紙袋が玄関に落ちる。
「ちょっと・・・わ、私の顔を拭いたら・・・」
「いいんだよ。俺のために使ってんだから」
メガネがずれて痛い
「ガキみたいに泣くなよ」
御柳くんはいつだって乱暴だった
「・・・ガ、ガキじゃ・・ありません」
「俺よりガキじゃん。お前2月生まれ」
「・・・っ!」
負けず嫌いでもあった
「あ〜〜〜!!泣くなウザったい」
本当は優しかった





何もいらない



忘れないでとも、言わない






秋が終わって冬が来たら、今みたいに思い出して欲しい





ありがとう  逢えてよかった

 




                             




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芭唐のおバカ発言「お前何月生まれだよ俺は10月だぞ」を使ってみました。