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夏の太陽も息切れしてきた感じ。
でもまだまだ秋というには早く、初秋の風は夏の名残をはらんでる。

グラウンド整備にでる前、部室でいきなり始まったチームメイトからの祝福の嵐。
そのせいで練習前にも関わらず、ボクの身体は早くも幸せな疲労感に包まれていた。
トンボを動かす手を休めて天を仰ぎ、風が額と髪を撫ぜるのにまかせてみる。

『そういえば、子津くんは何が欲しいんですか?』

ついさっき辰羅川くんから投げかけられた一言。
笑い声と祝福の言葉の飛び交う中で、ボクはそれに答えることができなかった。
せめて『誕生日プレゼントは何がいいですか?』と聞いてくれれば
もう少し余裕が出来たかもしれないのに、その質問は少し直球過ぎたから。
人口密度の高すぎる部室から爽やかな青空の下へ開放された今でも
その答えは頭の中に押し込められて浮かんでこない。
いや、答えはとっくに浮かんでいる。
けれどそれを声に出して自分の外へと出すことが、ボクにはどうしてもできそうに無い。
「ボクの、欲しいもの」
無意識に手にしていたトンボを握りしめ、質問の意味を確認するように呟いてみる。
欲しいもの、欲しいもの・・・

ボクの欲しいものは

そんなことみんなの前で聞かれて、答えられるわけないっすよねぇ・・・
「やはり自分でも困ってますか」
「!」
一人物思いにふけっている時に不意に背後から声をかけられたボクは
ビクリと肩を震わせ一瞬言葉をなくしてしまった。
「あ・・・辰羅川くん」
「先ほどは失礼しました。実は他の一年生たちとも相談していたんですが・・・
 子津くんの欲しいものというのが、どうしても見当がつかなくて」
本当に困っている、という風に辰羅川くんは肩をすくめて見せる。
そんなオーバーなリアクションが彼の場合はなぜか様になってしまって、少しおかしい。
「一年生みんなでカンパしたはいいものの、誕生日プレゼントが買えないんですよ」
「その−−−
「その気持ちだけで充分。というセリフは無しですからね」
先回りされてしまった・・・。
逃げ場をなくしたボクは苦笑した後、頬を掻きながらぽつぽつとしゃべり始めるしかなかった。
辰羅川くんがすかさず
『みんなのためにも答えていただけませんか?』
なんて言うから。
そんなこと言われてしまえば、もう答えるしかないじゃないっすか。
でもボクには・・・
「ボクの欲しいものって、そうっすね・・・お金じゃ買えなくて」
ボクには、お金で買えるもので欲しいものは無いし、とっさにそのことをごまかす器用な頭も無い。
浮かんだままで宙ぶらりんだった本音を、自分の外へそろりそろりと少しずつ出していく。
ボクの欲しいものは・・・
「他人から与えられるものでもなくて、それでいて自分ひとりじゃ手に入らないっす」
欲張りっすよね。と探るように眉間にしわを作って辰羅川くんに微笑みかけてみる。
それは問いかけと照れ隠し。
「・・・そうですね。子津くんは、そういう人ですよね」
辰羅川くんもそう言って微笑み返してくれた。
きっと『甲子園の優勝旗』とかキレイな答えを連想したんだろうなぁ・・・
本当の答えを聞いたら辰羅川くんはどんな顔をするだろう?
君の中だけでもキレイでいたいなぁって、汚いボクは思ってるっすよ。
「わかりました。やはり私たちで選ばせていただきますね」
「はいっす!」
望むだけなら無いものねだり。
だけど、それに向かって歩み続ければ夢。そこに実力が伴うなら目標?
そう信じてきたけど・・・
努力してもかなわないモノもあるとボクは教えられた。
目の前で微笑む辰羅川くん自身に。
「そんな子津くんですから、きっといつか全てを手に入れることができると思いますよ」
「あ・・・ありがとう、っす」
あぁなんて残酷なことを言うのだろう
ボクはきっと「彼」には適わないし、この願いもっと叶わないのだろうに。

辰羅川くんはきびすを返し、小走りで「彼」の元に戻っていった。
10mにも満たないその距離を、辰羅川くんは走った。
10mにも満たないその距離が、決して届かないことを思い知らせる。

その背中にクロスする、防具のベルトの中心を見て思う。
そんな風に君を夢中にさせるだけのものが、ボクにもあったらよかったのになぁと。








***

君が欲しい、なんて言えない。