自分を抱きしめているのか、それとも逃げ出さないように拘束しているのか・・・ そして猿野の全ての行為を一瞬でも許容しようとした自分の本音も、沢松には理解できなかった。 哀しさと愛しさが交じり合って自分の本当の心の在り処がわからない。 首に回されていた猿野の手が沢松の乱れた後ろ髪を解く。 わずかな引っかかりと共に自由になった髪が肩と頬に落ちた。 びくりと沢松の肩が震え、思考に逃げていた意識が現実に引き戻される。 猿野は取った髪ゴムを自分の手首に通すと、抱きしめていた身体を少し離して沢松に口付けた。 解いた髪が邪魔になるのを無視して唇を吸う。 「んぅ・・・っ」 沢松の拘束された腕は二人の身体の間にあり、きつく抱きしめられることで動きを封じられていた。 乱暴に顔を背けることでなんとか唇をずらす。 そのまま逃れようとする沢松の頭を猿野の手が追いかけ、捕らえた。 後頭部に添えていた指を髪に絡ませ顔を動かせないように固定する。 髪を引っ張られる痛みにかすかに歪んだ沢松の唇に再び口付け、今度は舌を差し入れた。 「っ!?う・・・」 唇の隙間から滑り込んできた感触に、沢松はかすかに眼を見開いた。 「ふ、ン」 少しでも奥へ這入り込もうと、顔の角度がさかんに変えられる。 そんな猿野の粗雑でなりふり構わない動きが沢松にはなによりも辛かった。猿野を感じすぎるから。 口という器官は嬲られ嘗め回されるためのものであるという気すらしてくる。息をすることも忘れた。 「ン、ぐ・・・」 沢松は口の端から唾液を零しながら、縋ろうとしているのか突き放そうとしているのか曖昧な仕草で腕を動かす。 その動きを感じながら沢松の息が乱れるのを待って猿野はようやく舌を抜き、身体を離した。 力の抜けた身体が猿野の支えを失って前に倒れそうになる。 縛られた腕でそれをかろうじて支え、沢松は荒い呼吸を繰り返している。顔は髪に隠れて猿野からは見えない。 「もう息あがってんのか?」 どんな表情をしているのか見たいと思った猿野は、髪に隠れた沢松の顎を掴み、ぐいと軽く上向かせた。 指先にに濡れた感触を感じた。唾液だろうか、汗だろうか、それとも・・・ 「は、ぁ・・・クソ」 少し充血した眼が猿野を捉え、睨みつける。しかしその表情は『怒り』なんて単純なものじゃない。 いろんな感情がごちゃ混ぜになった表情だった。見たことの無い沢松・・・ 猿野の心臓が大きく跳ね、背筋がぞくりとする。 「っ・・・そんな顔、すんなよ」 困る。 その表情から感じるのは拒絶でしかないのに、煽られて、焦れて、もっともっとやりたくなってしまう。 独り占めしたい。 その衝動を抑えきれず、抑えようともせず、猿野は沢松の両手を思い切り引っ張った。 「うあっ?」 踏ん張ろうにも、中途半端に脱がされていたズボンが脚にからまって簡単に引き倒されてしまう。 その背中に再び猿野はのしかかった。 押さえつけた沢松の首筋は髪が束になって張り付くくらい、汗で濡れていた。 沢松の頬に畳の痕が付く。その様が滑稽な分、後戻りできない事実は悲しさを増すようだった。 汗なのか唾液なのか涙なのか、それともそれら全てなのか、雫が沢松の顔を伝い畳を汚す。 「ハァ、ハァ・・・いいかげ、に・・・しろよ!あまく、にぃ」 状況が変わってまたひと暴れした沢松だったが、効果のなかった抵抗は息を乱しただけに終わった。 濡れた首筋にも、畳と布団、半々に押し付けられた胸板にも、拘束から覗く手首にも、赤い痕が痛々しく残っている。 それでもどうにか猿野の下から這い出ようと、肘を畳にこすり付けて身をよじるが身体はまったく動かせない。 畳の目に爪を立ててもガリガリと音を鳴らすばかりである。 猿野の硬い掌が首を隠していた髪を掻き揚げた。 あらわになった首筋に唇が寄せられ、ぬるりと舌が動く。 その感触に思わずヒッ、と声にならない声を上げ沢松は身体を硬くし唇を噛んだ。 すぐに離されると思っていた舌は奥から何かを引き出すようにしつこく首筋をねぶり続ける。 「ひぁ・・・あ、あ」 執拗なその動きに沢松は声を漏らしてしまう。うなじから垂れた唾液が喉の方へ回りこみ、畳にこぼれた。 唇がかすかに離れ猿野の吐息が首や耳に当たるたび、ビクリと身体が震える。 足が意思を無視してわずかに跳ねる。指は電気を通されたみたいにピクリと動く。 「んぅ・・・や、ア!」 ゾクリ、と背中に重い悪寒が走った。快感を感じる神経を選び、そこに息を直接吹き付けられている感じ。 気持ちいいわけないのに無理矢理そうやって快感を引きずり出されていくような・・・。 そんな一方的な行為に『感じている』と認めたくない沢松は唇を噛み必死に声の変化を隠そうとした。 しかし沢松が感じていようがなかろうが猿野にとってそれは大した問題ではなかった。 ただ沢松が、そこに居さえすればよかった。 猿野はいったん唇を離し、沢松の上で自分の制服のベルトを素早く抜く。 腰を浮かせて沢松を仰向けにさせ、膝の当たりにひっかかっていた沢松のズボンも抜き取った。 「っあ・・・」 下着だけになった沢松の脚の間に座り込み、その脚を両脇で抱え込んで身動きを取れなくする。 「なっ、はな・・せ、離せ、よぉ!!」 脚をバタつかせるが、がっちり抱え込まれていて動かなかった。 動かない足と縛られた腕の代わりに、イヤイヤと首を振る。 「・・・沢松」 猿野は脚を抱えたまま、手の甲で汗のしたたる額を拭う。 二人とも着ている制服はすでに汗まみれで大部分が色を変えていた。 「オマエTシャツ汗でぐしょぐしょ・・・」 制服の裾からのぞくTシャツをひょいとつまむと、沢松の身体がビクリ、と跳ねた。 拘束された両手は顔の横で布団を握りしめている。 「パンツも・・・なぁコレ、汗?」 猿野の手はTシャツを離し下着に掛けられた。 「っ、や」 わずかに湿り気を帯びている中心を布の上から猿野の指がなぞる。 沢松の顔がわずかに赤みを増す。布団を握る手には、ますます力が込められた。 「ふ、や・・・やめ」 静止を無視して猿野は掌全体を使って優しく揉みしだく。 「このままじゃきもちわりーだろ?脱がすぜ」 「ふざけんな・・・ぁ、い・・すぐ離れろっ・・て、離せよぉ!!」 「てばなす?誰が」 沢松を無視して猿野はなんのためらいも無く下着を取り去った。 沢松は汗にまみれたカッターシャツとTシャツだけの姿になる。 一方、猿野の制服は上下共に学校が終わった時のままだった。汗にまみれていることを除けば。 「う、た・・頼むから、天国・・・」 とうとう下をすべて脱がされ、抵抗する力も気力も汗と一緒に身体の外へ流れ出ていくようだった。 目の前がチカチカする。酸素が足りない。頭が痛い。気持ちが悪い。涙が出てくる。 「や、ハァ、こんな・・もぉマジ・・シャレになんねー・・よ」 「は・・・お前シャレで済ます気だったのかよ」 「天国・・・」 「今更シャレで済まそうなんて」 猿野は直に沢松自身に触れる。 「ひ、あぁっ!」 「こんな凄いことしてんのに」 萎えたままのそれを猿野はゆっくり上下に扱きはじめる。 「アァァ!ば・・・マジ、ヒッ」 短く切りそろえられた爪が先端を弄ると、沢松は眼を見開き背を軽く浮かせた。 目の前が真っ白になる。白の中で火花が散る。猿野の掌は硬かった。 その掌をつくり上げたのは自分のいない世界だと沢松は思う。 そうすると、汗で大部分使ってしまったはずの水分が奥からあふれてくるように、涙の量が増えた。 直接的な愛撫を続ける猿野の手の中で沢松自身は少しずつ形を変え 先走りが汗と混じってくちゅくちゅと音を立てている。 思春期の男子なら知っていて当たり前の行為。それなのに他人からされているというだけでこんなにも違う。 知っているはずなのに初めて知るような刺激だった。 「ハァ、ハァ、ひぁ・・あま、く・・・に」 先走りに濡れ反応している沢松自身の様子は縛られ平たい布団に寝かされている沢松よりも 手淫を続ける猿野からよく見えている。 沢松はそれが耐えられなくて、縛られている手を伸ばし猿野を止めようとした。 しかし消耗した身体はひどく重たく、猿野をとめるどころか畳の上から手を浮かせることもできない。 動くことも、快感に耐え踏みとどまることも出来そうにない。 「いあ・・・離せ、はなせって・・・やば・・アァ!!」 猿野の指の間からとろりとした液体がこぼれ落ちる。 手で受け止められなかった白濁は腹とTシャツを少し汚した。 沢松は拘束された腕を投げ出して荒い息を繰り返している。 身体は達したことの余韻で軽く痙攣していた。 猿野は手首に通してあった髪ゴムに滴りそうになったそれを、ぺろりと舐める。 「不味・・・」 「・・・っ」 その仕草を横目で見た沢松は背中を丸め、腕で顔を覆い隠した。 猿野はあらわな下半身に眼をやる。押さえつけていた脚をいったん離し片方を持ち上げ肩に担ぐ。 そうすることで秘部がよく見えるようになった。 「や、やだ、あぁ・・・あ」 腰をひねる格好で辛そうな沢松のそこに放たれたばかりの白濁と汗で濡れた人差し指を差し込む。 「ヒッ!?あぁ、や、うあ、あ」 沢松の身体が強張り、肩に乗せられていない方の足が布団を擦るように動いた。 声は苦しそうだったけれどすんなり人差し指は受け入れられた。それどころか指にまとわり付いてくるようだ。 「力抜け、沢松」 「あ、アッ、むり・・・あ、ア」 中の指の動きに合わせて沢松は声を上げる。 自由なほうの足はもがき続け、そのたびに布団が伸ばされたりしわが出来たりする。 手はシーツを握り締め力が入りすぎているのか指先が赤くなっている。 「天国抜い、って・・ぃた」 無意識に指を押し出そうとしているのか中の指が締め付けられる。その動きに逆らわず、いったん指を抜く。 そして沢松が息を吐くのを見計らって今度は2本挿しこんだ。 「アっ!!!・・・ぐ」 「狭い・・・」 増えた質量を拒むように指を押し出そうとする。 猿野はそれに抗って2本の指を入り口に止めほぐすように動かした。 「う、あ・・・はぁ」 内臓をむりやり動かされている感覚に、沢松は声を殺してあえいだ。 叫んでしまえば壊れるような気がした。汗と涙だけが流れ続けた。 それでも慣らされた入り口は傷つくことなく猿野の指を飲み込んでいる。 押し出す力が弱くなったところで2本を奥へと進める。 沢松の中の熱を感じるようとしているみたいに猿野の指が動き続けた。 「あちぃ・・な」 「っ、うごかす・・な・・ぁ・・ぐ」 猿野の人差し指と中指がバラバラに動くたびに、沢松はぬち、くち、と嫌な音が自分の中で響くのを感じた。 それでも声を出すことをせず、眼を閉じ唇を噛んで必死に苦痛をやり過ごそうとしている。 布団を擦っていた沢松の脚はもう動かなくなっていた。 猿野は指を引き抜いて今度は人差し指だけ挿入する。ゆっくりと奥へ。 そして探るように中で小さな円を描いた。 「ひ、う・・・あ!?」 やがて一点に触れた時、動かなくなっていた沢松の脚がピクリと動いた。 表情は苦痛とは違う歪みかたをしている。猿野はそれを見て、その部分を重点的に攻め始めた。 「うあ、いアァ!」 苦痛を押しのけるようにしてやってくる刺激。その正体が快楽だと気付くのに時間はかからなかった。 自分の内から犯されていく感覚。触れられていないのに、沢松の中心が再び質量を増している。 「く・・・アァ!ヤッ、ハァ」 縋るように猿野を見ると、猿野は沢松の顔ではなく勃ち上がり始めた沢松自身を見てその反応をうかがっている。 猿野は正直すぎる反応に驚いているようで、それが沢松にはたまらなく恥ずかしかった。 「ひ、あぁ!やめろ・・やめて、ア」 制止の声の合間も、指が触れるたびに甲高い声が出てしまう。 猿野は余裕のない表情でしばらく指を動かしていたが、やがてそっと引き抜いた。 そして沢松の片足を抱えたまま片手でズボンのファスナーを下げ、下着ごと膝まで下ろした。 すでに硬くなったそれを取り出し、沢松の入り口に先端をあてがう。 「ハァ、や・・もう無理、やだ嫌、だ・・・」 それを感じた沢松がかすれた声で拒絶する。今以上の苦痛を予感して恐怖に身がすくむ。 「無理じゃない。お前が、オレを、受け入れられないはずない・・・だろ?」 「な、アァ!!!」 沢松が何か言うのを待たず、肩に乗せた沢松の足を押し上げ、身を進めていく。ゆっくり、、ゆっくりと。 沢松を気遣った猿野のその動きは沢松にとっては羞恥をあおる為としか思えない。 引き裂かれる痛みも軽くなることはなかった。 「今までオレの全部受け入れて、ずっと傍にいてくれたんだ」 「イタ・・・あ、あっ、はぁ、アァ!!」 「これからもずっと、オレといっしょなんだから」 やがて限界まで猿野自身が埋まる。沢松の中、それだけで猿野は達しそうになった。 「オレのいない所で・・・他のヤツと・・・喋るな」 「え・・・?それ、って」 「今日部活で・・・喋ってただろ・・・子津とか、と」 「な・・それ、は、おまえの・・誕生日の・・いっしょ、に祝、アァ!!」 沢松の言葉は体内の熱の動きで中断された。猿野が腰を動かし始めたのだ。ギリギリまで引き抜いて、また挿し込む。 「ひ、あ、あぅ・・ア!」 猿野は忙しい息遣いで腰を動かし続けた。突き動かされて揺れる身体に合わせて水音がなる。 それに混じるのは、痛みに喘ぐ声と弱い部分を突かれるたびに出る甲高い声。 「や、アッ・・あ、ひっ・・・アァ!」 汗でずり落ちそうになる沢松の脚を抱えなおし、さらに奥を突く。 やがて猿野も腰の動きに合わせて声を漏らすようになった。 二人の呻きや途切れ途切れの小さな悲鳴が部屋を満たしていく。雫が滴る沢松のそれを猿野はそっと握った。 そして腰の動きに合わせて上下に動かす。 「ひぁ!や・・・ふ、うぁ!!ヤメ・・・い・・・あぁ!!」 前後からの刺激に耐え切れず、沢松は2回目の精を放った。それと共に中が締め付けられる。 猿野は自分もイきそうになるのを必死で堪えギリギリで引き抜いてから、自分もあとを追うように達した。 ・ ・ ・ 「なぁ沢松。オレは大勢で祝ってもらうより2人きりでいれるほうが嬉しい。そんな事もわかんなかったのかよ」 沢松は応えなかった。憔悴しきった身体は体液で汚れ、瞳は虚ろで濡れていた。 「お前のこと独り占めしたいと思ってんのは、やっぱオレだけなのか?」 やはり返事はない。 「オレは沢松がいなきゃだめなんだよ」 誰かに言い分けするように、そして自分に言い聞かせるように猿野は呟いた。 「遠くで見てるだけじゃだめだ。オレのそばにいろよ・・・」 拘束が解かれ投げ出された沢松の腕には皮膚が擦れた赤い痕が痛々しく残っている。 猿野はその痕と自分の手首にある沢松の髪ゴムとを交互に見た。 黒の細い輪がまるで本物の手枷のように思える。本当に拘束されていたのはどっちなんだろう・・・と猿野は思った。 あんなにきつく縛り上げたのに、沢松はすぐに何処へでも行ってしまうような気がした。 そのことを考えると、猿野はとても不安になる。 「沢松・・・お前はどうすればオレから離れられなくなるんだろうな」 オレがお前を必要としてるのと同じくらい、オレはお前に必要とされたいんだ。 ただそれだけなんだよ。これは独占欲っていうんだろうか? 愛するってことと、どう違うんだろう。